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特集

進化する生物農薬〜天敵利用と微生物防除の最前線〜

割高感・取り扱いが面倒・効果があいまい……などのイメージで語られることが多かった生物農薬。しかし、メーカーによる新しい成分の開発、製剤・散布方法の改善で、これまでの概念を変えるものが進化している。一方、ユーザー側にも経験とノウハウが蓄積して、生物農薬を使う経営上の意義も各農場で見出されている。さて、これからどんな変化が待っているのだろうか?

●素晴らしい技術だが導入するのは…?

 農薬の有効成分として天敵昆虫や微生物などを生きた状態で製品化したものを生物農薬という。2010年1月現在で102剤が登録されており、その内訳が15ページの表だ。天敵昆虫とダニ製剤は40剤、微生物殺虫剤は32剤、微生物殺菌剤は24剤、その他6剤となっている。

 この微生物殺虫剤の中で、最もよく使われているのはBT剤だろう。人畜に対する安全性が高く、天敵や圃場の生態系に与える影響が少なく、保存性に優れ、さらに化学合成農薬との混用ができるのが特徴だ。現在、チョウ目害虫を対象に、商品名で17剤が農薬登録されている。BT剤はその成分の微生物が作る殺虫性タンパク質が有効成分だ。

 その一方で、BT剤以外の微生物防除剤には、まったく違うしくみで防除するものもある。例えば、害虫に感染して最終的に死に至らしめるもの、害虫より先に作物の茎葉に陣取ってしまい、後から病原菌が侵入できなくするもの、作物に共生して作物自体の抵抗する能力を誘導したりするものなどである。いずれも微生物のもつ優れた機能や特性を活かしたもので、安全性が高く抵抗性が発達しにくいのが特徴だ。ところが使い方が難しいなどの理由で、使用量は少ないのが実態であった。

 日本の生物農薬の市場規模は20億円前後であり、国内の農薬全体の出荷金額約3700億円の約0.5%にすぎない。この中に天敵昆虫も含まれる。天敵昆虫も割高感や使い方が難しいことなどが導入が進まない理由とされていた。


●経営の手段として生物農薬を考える

 とはいえ近年、この状況が僅かではあるが変わりつつある。まず2008年に、これまでより圧倒的に使いやすいスーパー天敵として脚光を浴びてスワルスキーカブリダニなどが登場した。また微生物殺虫剤でも、BT剤には防除できないコナジラミ類などの吸汁性害虫を対象にした糸状菌製剤で登録が増えている。また、使い方や効果が化学合成農薬と変わらない、水稲の種子消毒用の微生物殺菌剤の利用が増えている。

 農業経営において生物農薬を導入する目的には、化学農薬のみに防除を頼るのではなく、いろいろな防除技術を取り込むことで作物の価値や品質を高め、経営コストを低減することにある。また、最近では化学農薬による病害虫の薬剤抵抗性を抑えることも重要なポイントだ。

 実際、本特集で生物農薬を導入している農場を取材したところ、見かけの資材コストは高くなることがあっても、農薬散布回数、その散布に使う時間、それによる効果の持続など、資材コストと散布の労働コストを総合的に考えれば、実は経営コストは変わらない、もしくは低減することにつながっていた。また、施設園芸ハウスで合羽を着て行なう薬剤散布は重労働である。その作業を軽減するという意味でも導入価値はあるという声もあった。

 生物農薬は成分の生物が定着して増殖することが必要で、これがうまくいかないと期待通りの効果は得られない。本特集の前半は防除技術の幅を広げる生物農薬の最新トレンド、化学農薬と相乗効果、メーカーによるイノベーションが注目される商品を紹介する。

 後半は、生物農薬の使用経験の長い農場を取材して、防除暦の組み立てを中心に、他の防除方法との組み合わせ、どうすれば安定的に利用できるか、を明らかにする。最後に日本GAP協会への取材により、生物農薬とともに語られることの多い農産物の安全性、同協会におけるIPMの定義や評価方法、さらに将来的な展望についてうかがった。

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