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筆者 一つの参考例として完全にオープンな市場開放を実現したEUを見てみよう。ヨーロッパの街を歩いていて、イタリアならピザ屋でドイツの樽生ビールが味わえるようになったし、逆にドイツの街では本場のイタリア・レストランが急激に増えてきて、ソーセージにビールというワンパターンな定番料理から選択の幅がグッと拡がった。
それとともに美味しいイタリア産ワインのドイツへの輸入も増えた。お互いのマーケットが拡大したことが旅行者の目でも確認できたよ。
A君 イタリアのビール産業は影響を受けたのかな。
筆者 イタリアでは、ワインの消費が若者中心に落ち込み、そのおかげでビール需要は増えているそうだよ。
需要の減ったワインは、市場統合を果たしたEU域内へマーケットを拡げることで活路を見出している。
A君 市場開放はメリットありということか。
筆者 市場開放すれば、メリットも、デメリットも必ず出てくる。
その得失を比較考慮したうえでメリットが多いと判断した結果、86年にEU加盟国は単一市場という究極の市場開放に踏み切ったのだ。
単一市場の実現から約20年、加盟国はあっという間にヨーロッパ中に拡がった。
特定産業が反対したからといって市場開放に踏み切らないというのは、国の進路を誤るだけだ。
A君 一般産業と農業では基本的に違うのでは。
筆者 一般産業は競争に敗れたらマーケットから撤退させられるが、農業は生産者に対して戸別所得補償のようなセーフティネットが各国で用意されている。
そんなに深刻な影響を受けるとは思えないのだ。
TPPに参加したら、明日にでも日本農業が立ち行かなくなるというのは、市場開放で打撃を受ける農協組織の誤ったプロパガンダである。
これに生産者は振り回されるべきではないね。
A君 農協組織はなぜ反対か。
筆者 そこがグッド・ポイントだ。完全オープン・スカイの市場開放では、彼らの事業基盤が根底から揺らいでしまうことを恐れている。
ウルグアイ・ラウンド農業交渉と違い、TPP参加は聖域なき市場開放になるので、農協の事業構造上のさまざまな矛盾が顕在化して、場合によっては組織が破綻してしまうことだってあり得る。ある意味で組織の存亡にかかっているのではないかな。
A君 農業界で期待できる効果はあるのか。
筆者 農業の構造改革だ。牛に引かれて善光寺詣りではないが、関税ゼロになってようやく、日本農業が国際舞台に上がれるようになる。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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