記事閲覧
【視点】
風土の賜物としてのラーメン
- 新横浜ラーメン博物館 館長 岩岡洋志
- 第82回 2011年02月28日
- この記事をPDFで読む
ラーメンはさまざまな発展形が生まれ、海外でも評価が高まっている。その中でも、郷土ラーメンはここ十数年ぐらいで急に日の目を浴びた感があるが、もともと各地で定着し愛されてきたものだ。ラーメンのルーツである中国の汁そばを日本人が真似していった際、各地の生活習慣や風土、制作者の個性、お客さんのニーズによって、独自の進化を遂げた。たとえば喜多方ラーメンは飯豊山の雪解け水と特産の醤油がスープのキレを生んだように。そうやって各地で自然発生的に発展していった郷土ラーメンは、情報化社会の波に乗っていく。多くのメディアが取り上げ、消費者が各店の情報をインターネットで発信する。こうして日本におけるラーメン食文化が豊かになるのと足並みを揃えるようにして、郷土ラーメンは充実してきたのである。しかし、昨今のブームにはマイナスの側面もないわけではない。
進む味の均質化
地方で評判の人気店に行くと、「東京で食べたラーメンの味に近い」と感じることが多くなった。つまり味の均質化が進んでいるのだ。どうやったら儲かるかを考えた結果、首都圏で人気のラーメンを真似したがる経営者もいる。消費者の動向を気にするあまり、無難な味や流行に走った結果、だんだん個性が失われてもいく。
商売だから決して悪いことではない。しかしただの模倣では、地域の人の工夫や試行錯誤、ひいては“哲学”に欠けた商品ができるだけだ。ラーメンは国民食にはなったとはいえ、こうした状況が続くと郷土ラーメンは低迷していくかもしれない。
郷土は強力な武器になる
それでも現在、一時は古臭いと敬遠されていた町おこしとしての郷土ラーメンが注目されている。これを開発する場合に注意すべきなのは、土地の産物をむやみやたら引っ張ってこないこと。そして生産地であることよりも消費地であることが重要だ。たとえば昆布は取れないが消費量は日本一の沖縄で、ラーメンに昆布を取り入れることは問題ない。もちろん消費の実態があれば地産地消もいい。大事なのは「誰も応援しないラーメンは作らない」ことである。
食産業に関わる人々は“ご当地”という強力な武器に気づいてほしいと思う。郷土ラーメンも、そこに長く住んで食文化を肌で感じた人しか作ることができない。首都圏の異質な味を取り入れるよりも、土地のよさを活かして発展改良させた方が、おいしいラーメンが生まれる。そして地域の食材に目を向けた時、風土に根付く農業が果たす役割もある。地域おこしで農業界とラーメン業界が手を結べば、面白いラーメンが誕生するだろう。(まとめ・鈴木工)
会員の方はここからログイン
岩岡洋志 イワオカヨウジ
新横浜ラーメン博物館
館長
1959年神奈川県横浜市出身。青山学院大学経済学部卒業後、(株)大倉博進を経て父親の会社である(株)興新ビルに入社。93年(株)新横浜ラーメン博物館を設立、代表取締役に就任し、翌年同館をオープン。著書に『ラーメンがなくなる日』(主婦の友新書)がある。 http://www.raumen.co.jp/home/
視点
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)
