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本特集では、数量・品質・価格・時期などの条件を決めて、農産物の作り手と買い手が契約的にする取引に焦点をあてる。買い手としては、小売業者、外食・中食・給食事業者、漬物業者、食品メーカー、宅配業者などを想定している。安定した農業経営を望む農家と、安定したコストで仕入れたい需要企業、お互いのニーズが一致して、近年このような取引が増えている。しかし、これまで「取引」に馴染んでない農家にとって、農協や市場に出荷していた頃にはない問題も生まれている。作り手と買い手が信頼のある良い関係を築くために「取引」とはどうあるべきなのか、改めて考えてみたい。取材・文/編集部、橋本哲弥

作り手編 取引の問題点や難しさ、それを克服する方法は?

契約栽培や直接取引を始めると、農業経営にどのような変化があるのか。
問題点や難しさ、それを克服する方法を本誌読者117人に聞いてみた。

●異業種の人間が同じ目線でお互いのメリットを考える

 約20年前の創刊以来、本誌では特定の需要企業との契約栽培や直接取引に取り組むことを、農業経営を安定化する手だてとして提案してきた。それは当時、多くの農家が主体的な営業や販売の努力のないままに農協や卸売市場に出荷を任せ、その時々の市場動向に一喜一憂する博打的な状況に経営を任せていることに、危うさがあると考えたからだ。

 当時、契約栽培や直接取引という言葉には、農家が需要企業に支配されるという意識があった。その後、農産物市場の変化もあって、安定した農業経営を望む農家と、安定したコストで仕入れたい需要企業、お互いのニーズが一致して、契約栽培や直接取引が増えている。このことは2010年の農業センサスでも指摘されている通りだ(図1)。

 確かに契約栽培や直接取引で経営は安定する。しかし、ただそれだけでは、出荷先が農協や市場から需要企業に変わっただけ、ともいえる。作業員ではなく農業経営者であるということは、主体的に取引先を選んだうえで、その取引の中から経営を創造することではないか。例えば、近所のラーメン屋にネギを販売するといった、最も根源的な「取引」の姿を考えてほしい。農家とラーメン屋という異なる業種の人間が同じ目線を持って、お互いのメリットを考えることが、信頼のある取引の始まりなのである。そして取引を合理的に進め、お互いの利害を調整すること、それこそが「契約」の本来的な役割であると考えたい。

 本誌では不信を前提とした契約よりも、協同してより良いものを作りあげていく手段としての契約という考え方を、もっと深めていく必要があると思う。本特集ではまず本誌読者の問題意識を知るために「取引」について読者アンケートを実施した。次に買い手側の立場、作り手と買い手が協同して取引を行なっている事例へと読み進めてほしい。


●経営計画が立てやすくなり、収入が安定したことを実感

 2011年2月上旬、本誌読者を対象に契約栽培や直接取引に関しての現状や問題点を、ファックスとウェブのアンケートで調査した。質問内容は、次のようなものである。


■ 質問1.現在、契約栽培や直接取引をしていますか?している場合、その取引先の業種を教えてください。

■質問2.その取引を始めてから、経営にどのような変化がありましたか?

■ 質問3.契約栽培・直接取引の問題点や難しさ、及び、それを克服する方法を教えてください。

■質問4.契約栽培・直接取引のなかから生まれた新商品・サービスなどがあれば教えてください。

 回答をいただいた117人の読者のうち、100人がすでに契約栽培や直接取引を経験されており、その取引先の業種の中で、最も多いのは小売業者、続いて外食・中食・給食事業者、そして食品メーカー、カット野菜などの一次加工業者、そして漬物業者となっていた(図2)。

 取引を始めたことで、経営にはどのような変化があったのだろうか?計画が立てやすい、数字の見通しが立つ、経営が安定・収入が安定、価格を自分で決められる……といった回答が圧倒的に多い。計画通りの効果を得られたわけだ。代表的なのは「直接取引で価格と納入数量が把握でき、計画生産が可能となり、生産物の品質・生産数量の安定のために生産技術を集中投下でき、収支バランスの取れた経営が可能になった」(宮城県・稲作)ということだ。

 また「売り場や調理場からの声が、生産側に届くようになって、意識が変わり始めた。また、圃場や生産者がトレースできるため、個人の責任が増して透明性が顕著になった。グループ内でのレベルアップや均質化が格段に進んだ」(新潟県・稲作)、「少量ですがラーメン屋に薬味としてネギの提供を始めました。太さの規格を問わないため選別作業の手間を省けたほか、規格外も商品として販売できます。コンテナ出荷のため包装資材費のコストダウンができました」(新潟県・野菜)など、その他にもポジティブな効果が多い。

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