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【農水捏造 食料自給率向上の罠】
日本の自由化度の低さはTPP参加以前の問題
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第29回 2011年02月28日
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TPP参加について賛否両論が白熱する中、農業の自由化の是非が議論になっている。その議論を深めるために、基本事実をきちんと整理する必要がある。そもそも貿易の自由化とは何を指しているのか。そして農業がなぜいつも自由化のネックとして語られるのか。
貿易の自由化とは何か
まずは、貿易と関税の基礎知識から。この世に存在するありとあらゆるモノは交易される可能性がある。しかし、国によって同じモノでも呼び名が違ったり、その名が示す範囲が異なったりしては、何が輸出され何が輸入されているのかお互いわからなくなる。
そこで森羅万象を整理し、一定の品目数に区分けされ、共通した番号が割り振られることになった。HSコードと呼ばれるもので、モノの名称と分類を世界的に統一し、国際貿易を円滑に行なう目的のためだ。
その数は9000番号に及ぶ。この中に、石油からプラスチック、医薬品から農薬、コメから錦鯉、美術品から武器まで、ありとあらゆる商品が含まれている。海外から輸入されるディア社のトラクタやアップル社のipadといった個別商品もすべてこの番号のどこかに入る。そして、貿易時に課される税金──関税はこのコード別に何%(従価税の場合、一部キロあたり何円といった従量税もある)かが決まっている。
ここまでわかれば貿易の自由化とは何か、すぐわかる。単純化すれば、この9000品目の関税を撤廃していく過程のことだ。
その究極の状態が「完全な貿易自由化」だ。この9000品目すべての関税がゼロの状態を、品目ベースの「自由化率100%」と呼ぶ。
逆に9000品目すべてに関税が課されている状態が自由化率0%だ。そんな国はないから、すべての国と地域の自由化率はゼロと100の間のどこかにある。
では、日本の自由化率は何%なのか。ほかの国と比べて高いのか、低いのか。
それを知るには、自由貿易協定(以下、FTA)においてどの国がどれだけ自由化率(今は関税がかかっていても、一定期間、通常10年以内に関税撤廃する品目も含む)を実現しているかを調べればわかる。日本はこれまで11カ国とFTAを結んでいる。締結順に国名とその国に対する自由化率を列挙してみよう。
シンガポール(84.4%) 、メキシコ(86.0%)、マレーシア(86.8%)、チリ(86.5%)、タイ(87.2%)、インドネシア(86.6%) 、ブルネイ(84.6%)、フィリピン(88.4%)、ASEAN(86.5%)、スイス(85.6%)、ベトナム(86.5%)だ。
最低がシンガポール84.4%で最高がフィリピン87.2%である。ざっくり平均すれば、日本には9000品目のうち15%ほどは関税撤廃していない。自由化率が高いと思われるかもしれないが、他国はどうか。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
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