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特集

東日本大震災から2カ月 農業経営の再建、そして復興へ——

2011年3月11日(金)14時46分、三陸沖を震源地とするマグニチュード8.0を記録した東日本大震災。あれから2カ月が経とうとしている。各地を襲った津波や液状化現象、建物倒壊、さらには原発事故、風評被害など、その傷跡は消えない中で、「負けるなニッポン」「頑張ろうニッポン」の合い言葉の下、日本国民は一体となって復興を目指している。産業構造と消費構造が大きく変貌するだろうが、農業経営者が果たすべき役割はこれまで通り、いやこれまで以上に大きくなっていくことは間違いない。今回の特集では、農業経営再建に向けて歩き出している被災地域の農業経営者を紹介するとともに、当面の経営再建とその後の復興にあたって、何が必要か、ではなく、何をすべきかを考えていきたい。撮影/編集部、西村智浩、田中智己 取材・文/編集部 

ドキュメント東日本大震災 農業経営者の前に立ちはだかった困難

「国難だ」という農業経営者がいる。「誰が悪いということはできない」という農業経営者がいる。今回の震災は戸別所得補償の経営に計り知れないダメージを与えているが、それでも前を向く、彼らの声を届ける。

【使用不能な水田が半分以上 大豆作への切り替えを検討】

 「まいった。液状化現象で田んぼがガタガタ。水稲を作るのをやめろってことかな。塩水を被ったわけではないので、その点は大丈夫だが」

 成田空港の北、利根川沿いの千葉県神崎町で営農する鈴木一司氏は自宅の軒下で地震に遭う。揺れが収まり、慌てて圃場を見に行くと、いつもと異なる風景が視界に飛び込んできた。

 「田んぼは液状化現象で水と砂が噴き出し、代かきしたみたいになっていた。一面、湖といったそんな感じ。今(取材日の4月11日)は2~3日前の強風で平坦に見えるが、震災後はそこらじゅうが噴火口のようだった」

 地盤沈下はひどいところで50cmにも及ぶ。畦の沈み込みもみられた。レーザーレベラーや重機での修復も考えられるが、そう簡単に動き出せない事情がある。

 「復旧に関する国の予算が決まるまでは動きづらい。近所では待ち切れずに自腹でレーザーレベラーやブルドーザーで作業する人もいる。ただ、自分の場合は借地が8割を占めるので、地権者と話し合って被害の出ていないところを優先することにしている」

 それでも、30haの経営面積の実に18haで何らかの影響が出、作付けできる状況にないという。うち、5haはパイプラインの損壊が甚だしく、使用不能な状態にある。この他にも排水路や農道に支障が生じており、複合的な被災が同町を襲った。

 当初、20haでの生産を計画していた水稲は半分以下になる。作業も遅れ、平時なら4月第1週に終わる播種も同月15日の完了予定にずれ込んだ。パイプラインの復旧との兼ね合いで全体の3分の1をまだ残すも、おそらく手をつけられないだろうと諦めの表情を見せる。

 しかし、鈴木氏は立ち止まっていたわけではない。地震発生後、2~3日ですべての圃場をチェックするとパソコンのエクセルソフトに情報を集約し、被害の程度に応じて水稲から大豆作への切り替えを検討しだした。

 「かんがい設備が埋設されている関係で、水稲がまず無理な場所でも大豆なら田んぼの亀裂を直せば何とかなる。7月までに播種できればと思うが、これに限らず、個人で対応できる部分は対応していく」

 大豆作での懸念を挙げるとすれば液状化現象で噴き出した砂のC/N比だろう。砂地ゆえに肥料の吸着力はもともと弱く、それが高いようだと養分の供給に不安が残る。だとしても、大豆しか選択肢のないところはダメ元で播くしかないと鈴木氏は決意を固めている。

 水稲と大豆以外ではナタネ、ソバ、小麦を手がける。時期的に出荷するものがなかったため、風評被害もないとのことだが、顧客に農業体験をしてもらう「田んぼのオーナー制度」でキャンセルが3~4件入った。

「昨年産のコメは滞りなく販売できている。むしろ、普段なら10kg単位で購入するお客さんがスーパーの店頭からコメがなくなる事態を受け、一度に60kgもまとめ買いするケースがあった。一方、交流のイベントでは『子供が小さいから』という理由でお断りされた」
 今後、自身に降りかかるかもしれない風評被害についてはまったく見当がつかないと言う。パイプラインなどの復旧費用の自己負担分もそれと同じある。

 「被災を受けた仲間に比べれば私のところはそれほどでもないが、こんなときは補助金もそうだし、泣き寝入りせずに損害賠償をしっかり請求すること。あきらめないで再建するしかない」

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