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新・農業経営者ルポ

「国産」ブランド榊の大逆襲プラン。



 そこで出発2日前からリサーチしたところ、筆者が訪問した生花店にはふたつの共通点があった。いずれも国産のヒサカキであり、「日持ちする」という理由で固定客をつかんでいた。「このあたりの花屋だったら、国産榊はどこでも買えます」というのが店員の返事である。「日本に出回っている榊の90~95%が中国産」と聞いていた筆者は、いささか拍子抜けした。国産榊の絶望的な数字を知りながら、その実感がまるで湧かなかったのだ。ところが、相方の編集者が訪ねた生花店で販売されていたのは、どれも中国産だったという。この報告には、奥山も驚いた様子だった。

 筆者は寺社仏閣が多く、下町色が強く残る文京区白山の店舗に飛び込んだ。だが編集者は、大型店舗とアジア系外国人が多い新宿周辺を歩いている。同じ23区内、それも山手線周辺だけに限っても、これほどの差があったわけだ。

 日本人にとって里山が身近だったある時代までは、ホンサカキであれヒサカキであれ、山に自生しているものを、いわば“小遣い稼ぎ”で農家が刈り採っていた。それが市場に出回っていたわけで、それで事足りた時代でもあった。しかし近年は、文京区界隈は数少ない例外だとしても、日本国内で圧倒的シェアを誇っているのは、中国からの輸入榊だという寂しい現実がある。

 資料によれば、輸入榊が急激に増えた背景には、日本人商社マンの活躍があるという。大陸の深い雑木林にある、ただ無造作に伸びている榊を見て「宝の山」と感じたのだろう。こうして92年に1400万本だった中国からの輸入榊が、2年後には15倍の2億1200万本と飛躍的に伸びている。つまり、奥山が就農した90年代前半が大きな転換期となったことをデータが示している。

 家庭や会社、店舗などに設置した神棚に榊を供えるのは通常、1日と15日だ。ひと月に最大2日間だけの役割しかもたないとはいえ、日本固有の宗教である神道と密接不可分な榊が、中国産で占められている。こうした現状のなか、果たして国産の榊にどんな勝機が見いだせるというのだろうか。

 奥山は、とした表情で淡々と答えた。

 「夏場でも優に1カ月、冬であれば、2カ月もつと言われたこともあります。八丈榊はたしかに値段が高い。でも、花屋さんも、そこで購入してくれるお客さんも、輸入された安いものを買ってマメに交換するよりも効率がいいと言ってくれるんです」

 木曜日の昼下がりだった。奥山が出荷のほとんどを委ねているネット市場「オークネット」の管理画面を覗かせてもらうと、セリに出している8件のうち、7件が早くもソールドアウトとなっていた。普段からこのペースにそれほどの差はない。1年を通じて採れたての榊を毎週3回も発送しているのだった。「消費者が榊を購入するのは多くても月2回」と、そう思い込んでいた筆者は、すっかり肩透かしを喰らった格好だ。まさに隠れたロングセラー商品だったわけである。

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