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国産榊の安定供給を模索した仲間作り
「輸入榊はそれなりの満足感を与えているかもしれません。本物の榊の良さを知る人が少なくなってきていますしね。だけど裏を返せば、そこにビジネスチャンスがあります」
夏場の中国産榊は、店頭に並べられた時点で悲惨な状態のものも少なくないという。短期間で「使い捨て」と考える人たちならば問題ないが、品質にこだわる人たちは眉をひそめるにちがいない。しかも朝10時の船便で出荷すれば、その日のうちに東京・竹芝埠頭に着く。結果、翌日には北海道、本州の生花店に新鮮な榊が並ぶのである。そのとき生花店や消費者は、中国からの輸入榊と国産の八丈榊、一体どちらを選択するのだろうか。
榊の品質を測る基準は、ほかにもある。色目が濃い緑色で、密度が高く厚みのある葉が、大きく伸びるように開いていることだ。神棚だけでなく仏花の裏当てや観賞用や祝賀用の飾りとしても使えるヒサカキは、これらの条件を満たす必要がある。
だが生産者にとって最も重要なのは、こうしたクオリティーを維持しながら、安定供給できるかどうかにかかっている。欠品が出たとたんに、取引先の信用を失ってしまうからだ。この課題を克服できなければ、国産榊のブランドを確立することはまずできないだろう。
奥山は一昨年、各地の榊生産者に声をかけ、「国産榊生産者の会」を試験的に立ち上げた。埼玉、千葉、静岡、石川、鹿児島、和歌山、そして三宅島など、まだ10名ほどのメンバーの小世帯だが、その目的は情報交換にとどまらず、産地間協力による安定供給も模索している。
奥山が苦笑しながら振り返る。
「ホンサカキを中心に生産している鹿児島県の志布志花木生産組合に初めて連絡したところ、怪しげなブローカーと勘違いされちゃいまして。そこで自分が作った榊を送ったら、対応が180度変わったんですね。農家同士は作品”を見せ合うのが一番手っ取り早いんですよ」
鹿児島の生産者は、ヒサカキに市場性があると知らなかったのだ。
「『静岡より北では、ヒサカキがサカキとして神前に供えられているんですよ』と実情を教えてから、お互いの畑へ視察するようになりました。それで八丈榊を枝で送ったら、今では2万本の挿し木で栽培中です。あと7~8年も経たないうちに、鹿児島産のヒサカキが世の中に出回るかもしれませんね」
そう嬉々として話す奥山に、ライバルたちへの闘争心は見かけられない。むしろ日本国内に数少ない生産者とつながることで、今はほとんど知られていない国産榊の存在と素晴らしさを世に知らしめ、ブランド化させていこうという気概が感じられるのだった。
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奥山完己 オクヤマカンミ
ヒューマン企画
1961年東京都八丈島八丈町生まれ。東京都立八丈高校、東京農業大学農学部農業経済学科卒業。大学卒業後、軽貨物運送の自営業者として生計を立てた後、85年東京都庁に入庁。主に八丈支庁で産業振興に取り組む。93年1月にヒサカキ専業農家として経営を開始。2009年には国産榊のブランド化と市場への周年安定供給を目指し、「国産榊生産者の会」を立ち上げる。経営規模2.5ha、年商1,500万円。
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