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被災した生産者を迎え入れることも視野に
八丈の気候は温暖多雨、多湿、そして台風の通り道でもある。しかし病害防除への対策さえ怠らなければ、まるで背伸びでもするかのように盛んに上へ伸びようとする。八丈の自然環境が、豊かな生命力をもつ榊をこの島にもたらしてくれたのだった。
同じ榊山でも、祖父の代に牧場として開墾された永郷の畑と、島の中心に位置する大賀郷の畑では、微妙な環境差に配慮しなければならない。特に永郷は、西風が吹く冬場に葉が焼けてしまう。ヒサカキ自体が潮っぽくなるので、一雨降るのを待ち、潮を落としてから収穫となる。
また、300坪の大賀郷の榊山は、視察に訪れた生産者が一様に驚く奥山自慢の畑だ。やはり大賀郷にある自宅の裏にも畑があり、不足分の調整や、急な注文が入った際に近場の畑が強い味方となってくれる。
従来の八丈島産榊の取引は、1m超の枝を数十本の束にして、いわば1俵で売るのが通例である。しかし、奥山は出荷に際して、33cm~60cmの間で6種類の規格を作り、枝1本でいくらという価格を設定している。畑でそれぞれのサイズを必要な分だけ伐採してくるのだ。
「選別をしていく手間は増えましたが、小ぶりなものもよく出るので、結果的に回転が速くなったんです。以前の規格だと、大きな榊を伐採せざるをえないでしょ。だけど、そこまで育てるのに2年かかるわけですよ。売上が立たないと規模拡大に走らざるをえないけど、品質で勝負したい私としては、その選択肢はありませんでした。それに作り榊に好まれるサイズが、地域ごとで全然違うんです。たとえば仙台では45cm、石川では50cmが中心となります。花屋さんが自由に組み合わせられるセミオーダーメード的な売り方をしているんです」
夕刻を過ぎてオークネットの画面を開くと、唯一残っていた榊もソールドアウトとなっていた。これで完売である。奥山たちが負担するのは、東京までの運賃だけだ。そこから先の流通は、オークネットが責任をもつ。通常、市場の事務手数料は10%だが、オークネットに出荷した場合は8.5%ですむ。代金回収もオークネットが担当する。妻の理枝を悩ませていた事務手続きからも解放され、労働環境が格段に向上した。
しかし、「まだまだやるべきことは多い」と、奥山は次の1ページを開くことを忘れない。
ひとつには、後継者の問題である。ふたりの子どもたちは島から出てしまい、現在のところ榊に興味を持つ島の若者はいない。そんな矢先に起きた震災で、奥山にはふと思いついたことがある。
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奥山完己 オクヤマカンミ
ヒューマン企画
1961年東京都八丈島八丈町生まれ。東京都立八丈高校、東京農業大学農学部農業経済学科卒業。大学卒業後、軽貨物運送の自営業者として生計を立てた後、85年東京都庁に入庁。主に八丈支庁で産業振興に取り組む。93年1月にヒサカキ専業農家として経営を開始。2009年には国産榊のブランド化と市場への周年安定供給を目指し、「国産榊生産者の会」を立ち上げる。経営規模2.5ha、年商1,500万円。
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