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土門「辛」聞

コメ産地もマタイの法則の通り兼業先に恵まれた地域に軍配

日本農業の特質を表すのが、零細規模と兼業。稲作農家の平均的な耕作面積は1ha程度。これでは家計を支えることはできない。そこで農業以外に収入を兼業先に頼ることになるが、その兼業のありようで農業は変わってくる。田圃の小作料を通して日本農業の実態を見てみよう。

 日本農業の特質を表すのが、零細規模と兼業。稲作農家の平均的な耕作面積は1ha程度。これでは家計を支えることはできない。そこで農業以外に収入を兼業先に頼ることになるが、その兼業のありようで農業は変わってくる。田圃の小作料を通して日本農業の実態を見てみよう。

 田圃の小作料は、物納の場合もあれば、金銭で支払われる場合もある。比較しやすいのは、金銭で払う金納である。金納は、日本不動産研究所が昨年秋に公表した資料では、全国的な平均小作料は10aあたり1万1560円という数字である。東北や北陸の稲作地帯を歩いての実感は、概ねこれに近いか、ちょっと上回る金額だ。物納は、10aで玄米1俵(60kg)というのが相場のようである。もちろん地域によって、それ以上もあれば、それ以下もある。

 それと最も重要な点は、小作料は、宅地や工場用地などと違って多分に収益還元的なものでは決まらないことである。収益還元的とは、その田圃でコメを作って得られる収入に見合った料金という意味である。

 各地の実例を見てきた筆者の実感では、小作料は兼業先収入の状況によって左右され、兼業先収入の少ない地域ほど高くなり、その逆に兼業先収入に恵まれた地域ほど低くなるという傾向がある。説明を分かりやすくするため、企業の進出が少なく、農家の所得も低い青森県と、それとは対照的に数多くの企業が立地し、雇用機会に恵まれた静岡県を取り上げてみる。

 表1をご覧いただきたい。農水省統計部が調査した「2009年都道府県別小作料と農地価格及び使用目的変更田畑売買価格」から青森県と静岡県の平均小作料と農地平均価格の部分を抜き出した。いずれも10aあたりの数字である。それに農家世帯の総所得を突き合わせて表に示した。総所得とは、農業所得、兼業先収入といった農外所得、年金収入などを含めたものである。

 ここで小作料と農地価格が逆転関係にあることに注目していただきたい。青森の平均小作料は、静岡の1.7倍も高いのに、農地平均価格は逆に約半分でしかない。常識的な発想なら、平均小作料も農地価格と同じトレンドを示すと思いがちだが、決してそうではない。

 青森と静岡の米価を説明しておく。主力品種での比較では、当時、青森のつがるロマンは1俵(玄米60kg)1万2000円弱、静岡のコシヒカリ同1万4000円台。米価の差は2000円ほどある。

 ここから読みとれるのは、農地価格は収益還元的な要素が見受けられるのに、小作料がそれとは逆の動きを示していることだ。

 次いで農家世帯の総所得との比較を試みてみよう。09年は、青森が360万円に対し、静岡は484万円。両県の産業構造や就業構造からみると、だいたいこれぐらいの差はついてくるようだ。(農水省が調査する農家総所得は、標本調査だが、サンプル数が少なく、実態をあまり反映していない。だが、09年の数字に限って言えば、だいたいこんなところではないかと思う)

 ここは傾向分析した方がより分かりいいかもしれない。静岡は、数多くの企業が立地し、就業機会も多い。しかも自動車やエレクトロニクスのような輸出産業の代表的企業が目白押しだ。農家はその恩恵に浴し、そうした企業を兼業先にしている。それに比して青森は中小零細企業が多く、非正規労働者の割合も高い。両県の県民所得は、東京、愛知に次いで3番目という静岡に対し、青森はどん尻の沖縄から数えて10番目という対極に近いポジションにある。

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