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「うちの牧場で作ったものを、うちの直売所で売る。それが消費者にとって、一番わかりやすいんです。直売所があることのメリットはそれだけではありません。直売所から自分たちの情報を発信できますし、逆を消費者の情報を得ることもできるんです」と小林はいう。
だが、牛肉の直売所を別の言葉でいえば、精肉店である。店を構えるのはそう簡単ではない。設備投資も必要だし、肉を切るには熟練した職人を雇用しなくてはならない。幸い、小林の長男は大学の農学部を出たあと、将来的に小林牧場の経営を見据えて、大手食品メーカーの営業マンとして3年間働いた。そのおかげで、多くの流通業者とのネットワークがあったため、直売を始める上で大きな助けとなった。
現在では直売所は3カ所あり、04年には生産情報公表JASの認定も受けている。首都圏など遠くから買いに訪れるほか、生協やホテル、焼肉店、さらに学校給食にも牛肉を提供している。
時代を視野に入れた経営と資金調達の大切さ
畜産業界を見渡せば、誰もが小林のようになっているわけではない。優れた銘柄牛を生産しながらも後継者不在による廃業や、経営の行き詰まりから場合によっては最悪の選択をしてしまう経営者もいる。そうした経営者と小林との違いはどこにあるのか。
「おそらく紙一重なんだと思います。ただ、あえていうならば金融機関といい関係を築けてきたことが一番大きいのではないでしょうか」
法人化したあと、小林は年商1億を目標とする事業計画を立てた。それが達成されると、つぎに年商3億を新たな目標に据え、2億の融資を受けようとした。しかし、年商の2倍という額を貸してくれるところはなかった。しかし、小林はあきらめなかった。外国産牛肉自由化の時代に備えて生産部門の規模を拡大し、牛の数を1000頭以上にする。でなければ持続可能で、時代にあった経営体にしないと、後継者につないでいけないからである。当時の農林漁業金融公庫と繰り返し話し合い、1カ月かかって膨大な書類をつくりあげ、なんとか融資を受けられた。
「この経験から、金融機関とうまくつきあっていくことこそ、経営者としてなにより大切だと痛感しました。危機的状況の中で、もっとも頼りになるのは金融機関です。ですから、高い理念にしたがって、こつこつと実績を作り、社会的信用を培うとともに、金融機関との間に信頼関係を取り結んでおく。経営者にとって力強い支えとなります」
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小林輝男 コバヤシテルオ
有限会社小林牧場
代表取締役
1949年山梨県境川村(現・笛吹市)生まれ。山梨県立農業大学校卒業後、地元の農協で家畜人工授精士として働く。その後、家業の酪農業に入る。85年経営移譲を契機に乳肉複合経営に転換し、法人化。91年甲州ワインビーフ生産普及組合を設立し、92年には肉用牛肥育経営に完全シフトする。2002年販売会社である有限会社美郷を設立、現在3店舗の直売所を運営する。敷地面積5ha、牛舎14棟、肥育数1,350頭。従業員数10名。年商7億円(グループ全体)。http://www.winebeef.co.jp/
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