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【江刺の稲】
民から農業を、日本を変える
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第183回 2011年07月15日
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7月1日、A―1グランプリ2011の決勝大会が東京大手町のTKP大手町カンファレンスセンターに200名を越す参加者を集めて開催された。エントリー総数186名から全国5カ所での地方大会を勝ち抜いて残った11名の発表者が18名の審査員を前にグランプリを競った。
今年度のA―1グランプリ(賞金100万円)に輝いたのは羽廣保志氏((株)下請の底力・群馬県太田市)の「農機具カスタマイズ計画」。また、農業経営者賞(賞金50万円)は成田康平氏(ナリミツ農園・青森県藤崎町)の「60キロ7000円で利益を出す米づくり」が獲得した。その他、Made by Japanese賞(賞金20万円)、Agrizm賞2名(賞金各15万円)、日本GAP協会賞(賞金10万円)がそれぞれ選出された。
グランプリを受賞した羽廣氏は群馬県の自動車部品を作る金属加工業者。群馬県内を中心にした各種の下請け事業者とともに(株)下請けの底力という会社も立ち上げている。小回りのきく小規模事業者であればこその時代に要請される役割を果たしていこうという運動体的組織だ。「農機具カスタマイズ計画」も彼のもとに持ち込まれる様々な農機具や農業設備の改造・改良依頼に応えて来た体験からの事業プランだ。車速や作業部の回転数を変えるプーリやギアの加工を始め様々な機械設備の改造。農機具販売店はかつて、販売と整備だけでなく機械や農具の改造や改良を請け負っていた。しかし、今そうした要望に応える能力を持つ販売店は限られる。
そこで、羽廣氏は自分だけでなく地域を超えた小規模な金属加工業者や農機店、自動車整備業者などがネットワークしてサービスを提供する事業を呼び掛けたのだ。羽廣氏はグランプリ受賞を機にしてネットでの呼びかけも開始している。
一方、農業経営者賞を獲得した成田氏は、乾田直播技術実現の前提になる作土作り、圃場の均平と鎮圧技術を解説し、それによって実現する増収と省力化による低コスト化を体験に基づいて報告した。これも文句なしの受賞となった。
A―1グランプリは農業・農村を核とした新たなビジネスプランを競うコンテストである。これまで農業界で行われてきた農業関係者が農家を表彰する農業賞と一線を画す農業コンテストでありたいと考えてきた。これまで政策的にも一般社会や産業界から隔離されてきた農業界を開放することが目的だからだ。農業政策があり予算があって、その具体化として農家に行政や農協の指導のもとで進められてきたこれまでの農業事業開発。でも、本大会は、個人が今という時代やマーケットであればこその事業プランを示して出資者や協力者あるいは取引先や顧客を求めるというコンテストである。しかも、それを考えるのは農家だけである必要はない。今回のグランプリが農業の周辺事業者からの農家に対する新しいサービス提案である。それが農業を変えるのだ。
農業といわず、日本は民の力でしか変わらない。東日本大震災以来、期待する役割を果たせないでいる政治や行政あるいは政治家に対する国民の失望感はこれまでにないほど高まっている。でもその半面で、老若男女、個人か企業かの立場を問わずこれほど多くの人が自ら果たせることを探し求めている時代はないだろう。そこに日本の未来がある。186名の出場者もそんな日本をつくる人々なのであり、A―1グランプリそのものが民から農業を変えるための手段にしていこうと思う。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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