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【土門「辛」聞】
農業が元気づくコメ先物市場 全中の反対論は支離滅裂だ
- 土門剛
- 第83回 2011年07月15日
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ようやくコメ先物市場開設に向けてゴー・サインが出た。
7月1日に農水省が試験上場の認可を決定した。コメ先物市場の復活は72年ぶりのことである。コメ先物市場の意義について、東京穀物商品取引所の渡辺好明社長のコメントが明瞭簡潔だ。
「コメの公正な価格指標や価格変動リスクのヘッジ手段を提供できる」(7月2日付け産経新聞)
これ以上の説明はない。1兆円を超す商品で、しかも天候の影響を受けやすい農産品で先物市場がないというのは、不公正な価格がまかり通り、なおかつ価格についてのリスクヘッジもできない。どう考えても不自然なことである。
これに対して農協組織は、断固反対の姿勢だ。全中は、茂木守会長名で「大変遺憾。強く抗議する」と、次のような抗議文と談話(いずれも7月1日付け)を発表している。
「本日、農林水産省が我が国の主食である米に対して、投機的なマネーゲームである先物取引の試験上場を認可したことは、たとえ試験上場であっても市場原理主義を徹底することで米政策を推し進めることであり大問題である。また、東日本大震災や原発被害を受けている地域は米の主産地であり、今後の米生産と販売に大きな不安を抱いているなか、地域農業の復旧・復興に全力を挙げている生産者の心情や声を全く無視したことに大きな憤りを感じるものである」
投機的なマネーゲーム、先物市場の一部の問題点だけをやたら強調して反対論を煽るデマ宣伝は相変わらずである。だが、このレトリックには少々違和感を覚える。仮に投機的なマネーが流入すれば、米価は確実に値上がる。生産者や農協にとってプラスになるはずだが、それでも強硬に反対するのは、ほかに特別な理由がありそうな感じがする。
次いで「東日本大震災や原発被害」という部分は、主産地の東北地方の農協やコメ農家を反対論に導くための単なるアジテーション。中身は何もない。
どのメディアも農協組織が先物市場に反対する理由に鋭く切り込んでいない。特に生産調整や戸別所得補償との絡みについて、ぐっと踏み込んだ記事が待たれているのに、である。その辺を解き明かしてみるのが本稿の目的だ。
農協のコメ流通をざっと整理しておこう。ちょっと古い数字だが、最新の数字である平成20年産で説明してみたい(表1)。882万tの生産量があって、出荷・販売には636万tが回った。残りは、農家消費、無償譲渡、加工米やもち用などだ。出荷・販売した米で農協が扱ったのは390万t。全体の61%になる。旧食管時代には8割から9割のコメを独占していた時代と比べれば、隔世の感がある。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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