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ここで、生産調整の問題との絡みについて説明してみよう。ポイントは、やはり全中が指摘した「国の主導で」という部分である。ここでは国の主導というのが完全になくなった場合のことを想起すればよい。
まず「都道府県別の生産数量目標(需要量に関する情報)」で、国が数量配分につながるような曖昧なものがなくなった場合、全農が前面に出て、全農本部が、生産目標数量を都府県ごとに、さらに全農都府県本部は、市町村ごとに配分し、さらに農協が集落ごとに配分することになるが、これができないことは全中も先刻承知であろう。
仮に平等に配分したところで、必ず不満は起きてくる。下世話な表現では、「こっちは売る力があるのに、なぜ売る力のない農協と同じ配分なのか」という類のものだ。それは確実に全農への反発につながっていく。それでなくても売る力のある農協ほどいつか全農離れをしたいという思いを募らせており、もし配分で不満を抱かせば、独自販売を強めたり、肥料や農薬など生産資材の調達を商社に切り替えたりなど報復手段を打ってくる恐れが十分にある。
これは農協にも当てはまることで、もし農家に配分を強要すれば、強烈な反発を受けるはずだ。農協の場合は、貯金の引き上げや共済の解約を招き、最後は出資金の引き上げという強烈なしっぺ返しを見舞われかねない。
農協間に競争が起こることは、全農が秘かに恐れていることでもある。先物市場開設となれば、販売力のある農協は、これを契機に増産に踏み切るだろうし、反対に販売力のない農協は減産に追い込まれることになる。全農には、後者が集まり、まさに劣後農協を束ねる組織と化す恐れがあるのだ。
戸別所得補償とは両輪の関係
戸別所得補償制度との整合性についての全中の言い分は、理解しづらい点がある。公表された資料では、突っ込んだ論拠が示されていないので何とも論評しようがないが、一つだけ言えることは、戸別所得補償制度を維持するためにも、先物市場は絶対に必要ということである。
現行の戸別所得補償制度は、補償を発動する際の算定基準に使う米価に全農と卸の間で決まる相対価格を利用している。このような価格決定は、当事者だけでブラック・ボックスの中で決められるため、時として売り手や買い手の思惑が優先することがあり、需給実態を反映しないこともある。当事者の一方が、他方に対して優越的な地位にある場合は、なおさらのことである。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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