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特集

水稲育苗の技術と経営
遅れた機械化をどう克服するか

 笛木さんは、「水稲苗の生産販売」にとどまらず、様々な「苗」の生産に絞りこんだ施設型農業経営の可能性を切り開こうとしているのであり、農家に向けて苗供給をする「サービス業者」として脱皮しようとしているのだ。時代の要請にしたがって。そして、将来的には1億5000万円~2億円の売上を計画している。

 笛木さんは投資を考える時、投資額と同額以上の売上が出るかどうかを一つの目安にしてきた。例えば水稲育苗関係で5000万円の投資であれば、5000万円の売上を上げる。

 笛木さんの苗は1箱900円であるから、1シーズン5000万円を売り上げるには5万6000箱が目安である。同時に導入した設備を使えば、今までの2倍以上の生産量にしても、これまでと比べて人手は3分の1ですみ、人件費コストは大幅に下がることにもなる。


笛木農園の市場環境


 笛木さんは7~10万箱という受注計画達成に自信を持っている。今まで平均4万箱を販売してきたが、今年の受注は3万5000箱と昨年より少ない。新設備の導入にともなう慣らし期間であることもあって、あまり積極的な営業をしなかったからでもある。もっとも、今年は不景気な情勢に加えて政府予算の執行が遅れたために土木工事の仕事が少なくなっている。そのために昨年より自分で育苗する人も増えている。また、かつて労力的に見合わないからといって止めていた小規模な苗生屋者たちが、農業経営に不安を感じてあらためて苗の販売を始めたことも受注減の理由としてある、と笛木さんは分析している。

 塩沢での苗の価格水準は、稚苗で1枚900円。他の地域と比べれば安くはない。それにもかかわらず止める人は止めていったのだ。一度止めた苗販売者が再開したからといってそれは問題にする相手ではないと笛木さんはいう。これからは今までと同じやり方ではついてはこれないし、しかもそんな腰のすわらない生産者なら状況が変わればまた消えていくだろうと見ているのだ。今の施設の稼働を本格化させれば1箱当たりのコストはさらに下げられるわけである。笛木農園が魚沼地区の苗の価格を一気に下げてしまうようなこともあり得るのだ。それは顧客たる兼業農家の人々に価格を含めたサービスをどれだけ提供できるかの競争になるのだろう。

 一方、笛木さんのような苗生産業者の競争者となる農協育苗センターでは、管理者能力の点や民間事業者のような施設稼働率を高める努力は見込めそうにもないことから、大きなコストダウンは進まないであろう。

 笛木さんが顧客の確保に心配していないというのはこうした背景があるからだ。

 また、笛木さんが今回の投資に踏切れるのも長年の「水稲苗販売業者」としての営業経験やカイワレダイコンのビジネス体験の中で培ってきた経営感覚があるからだろう。そして、笛木さんは今こそが拡大のチャンスだと考えているのだ。

 笛木さんの場合は市場環境にも恵まれている。笛木農園のある新潟県の魚沼地区は田植えの最盛期が連休過ぎの5月7~15日ころであり、必ずしも連休の数日間に注文が集中するということはない。しかも顧客のエリアは5km以内であるが、標高の違いなどから比較的田植えの期間が長くとれる。さらに笛木農園ではお客さんに農園側で出荷の日時を指定している。ただし顧客の所まで30箱入りコンテナに積んで配達する。1箱900円は配達料込みの値段である。

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