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特集

水稲育苗の技術と経営
遅れた機械化をどう克服するか

 顧客のほとんどは80a平均の小規模な兼業農家である。もとより農業経営に意欲があるわけでもなく、また経済的に深刻に農業収益の必要を感じているわけでもない。楽しみ半分でする稲作り、コストや手間をかけずにやるうと思えば苗は買った方が簡単と考える。そして米市場が暴落期に入ってきつつある現在でも相変わらず2万7000~8000円で売れる魚沼コシヒカリの産地なのである。

 笛木さんにとってはこれらの兼業農家を顧客とするだけで今後充分な需要が見込めるのだ。

 ところで、将来的に苗の販売価格がさらに下がれば、プロの大規模農家も苗を購入する時代もくるのではないだろうか。プロの稲作での育苗と栽培の分業である。なぜなら、直播は一部の地域を除けばそれほど進みそうにないし、大規模な経営では規模が拡大されるだけ育苗の労力やコストに経営的な矛盾が生じてくるからだ。かといって、笛木農園のような専業苗生屋者が導入する完全自動化への投資は困難であろう。となると地域によっては「苗生産業者」にとっての顧客は、兼業だけでなくプロの生産農家もその範暗に入り、苗生産業者たちの営業活動が趣味的生産者の稲作を保証し、かつ専業層の生産コストの低減にも寄与することになる時代が来るのではなかろうか。

 もっとも、民間の業者が成立し得るのは一定の「市場条件」が必要なのはいうまでもないが……。


1000箱/時処理の 播種プラント


 笛木さんの大規模苗生産業を可能にする機械設備を見てみよう。

 多目的に使う耐雪構造の大型ガラスハウスには地下配管の蒸気暖房装置が組み込まれている。播種プラントの処理能力は時間当たり1000箱。その中には播種後の苗箱を自動的に積み上げていくパレタイザが組み込まれている。出芽室は、箱数に合せて自由にスペースの変更ができるアコーディオン式ハウスで、蒸気は地下に配管したパイプから供給される。出芽室は水稲の時期が終わると片付けられるようになっている。

 作業の流れは、まずフレコンで持ち込まれた培土をクレーンに吊るし荷受口に投人する。さらにコンベアで、播種ラインへの培土供給と培土の混合をする培土ホッパーに送り込まれる。培土に混ぜる肥料やピートモスなどの添加資材は別ラインで小型の砕土機で砕いた後、2000箱分を1回量とした混合機で混ぜ、培古フインに合流させる。砕土機への投入は人力だが、1日4000箱処理なら1日2回の短時間作業ですむ。培土はさらに培土ホッパー内で混合される。床土と覆土は同じものが播種ライン上の各ホッパーに培土ホッパーから自動供給される。苗箱の供給は苗箱供給装置からだが、そこへの箱の積み重ね、および種籾の播種ホッパーへの供給は人力。ラインの最終工程には、 1ロット200箱を専用パレットに積み上げるパレタイザ(パレタイズロボット)を装備してある。作業の流れを決定付けるパレタイザの精度を高めるために苗箱はすべて新しい統一仕様のものに更新した。パレットに積まれた苗箱はフォークリフトで出芽室内に搬入する。専用パレットの下にはキャスタが付いており、コンクリートの上では人力で移動できる。

 この間の作業に要する人手は、2・5人いれば余るくらい。処理量は1時問当たり1000箱である。育苗箱の一斉更新は、もったいないと思っても技術革新にとっては必要なコストなのだと笛木さんは考えている。

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