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“被曝農業時代”を生きぬく

“汚染稲わら”叩きでは終わらないセシウム牛問題 欧州5カ国と旧ソ連3カ国の共同研究でわかった解決策

7月9日、東京の食肉処理場の牛肉から暫定規制値倍以上の放射性セシウムが検出され、それ以後、1カ月に渡り全国各地で“セシウム牛”の流通問題が取り沙汰された。政府は8月2日、福島県や宮城県、岩手県に続き、規制値超の検出が相次いだ栃木県で県全域の牛の出荷停止をした。4県での出荷停止という最悪の事態はなぜ起こったのか。原因はすべて高濃度に汚染された稲わらとされるが本当か。その究明とともに、今後の対策について提案する。

 7月9日、東京の食肉処理場の牛肉から暫定規制値倍以上の放射性セシウムが検出され、それ以後、1カ月に渡り全国各地で“セシウム牛”の流通問題が取り沙汰された。政府は8月2日、福島県や宮城県、岩手県に続き、規制値超の検出が相次いだ栃木県で県全域の牛の出荷停止をした。

 4県での出荷停止という最悪の事態はなぜ起こったのか。原因はすべて高濃度に汚染された稲わらとされるが本当か。その究明とともに、今後の対策について提案する。

 「原発から80kmも離れているのにまさかこんなことになるとは」(汚染稲わらを出荷した白河有機農業研究会代表)。最大で1kg当たり9万7000Bqの放射性セシウムが検出された、福島県白河市の水田農家の本音だ。
結論からいえば、人災である。第一義的に東電、そして原子力保安院、原子力対策本部の責任を除けば、すべては文科省と農水省の縦割り行政に起因する。

 図1(42頁)をご覧いただきたい。ようやく文科省から発表されたセシウム134及び137合計の蓄積量である。平方メートル当たり10万Bq以上の汚染地域は大方、その80km圏内に収まっている。

 米国で事故以前から公表されている農家向け原発事故対策にはこうある。

 「50マイル圏内での飼料をすべて屋内に入れること」「汚染されていない餌と水をやること」
50マイルとは80kmだ。原発を100基超、大気圏内原爆実験1000回以上のデータを有し、集積・解析している核大国だけのことはある。ドンピシャである。


【米国農務省、農水省より早く飼料対策を発表】

 事故後の3月18日には、米国農務省の外郭団体FARAD(食品・家畜残留物忌避・除去プログラム)は米国の農家向けに、「福島第一原発の事故を受けて、放射性物質の降下汚染による家畜に対して考慮すべきこと」という文書を発表している。その中に、「最初にやるべきことは放射性物質が降下する前に、家畜と飼料を屋内に入れること」とある。福島原発から遠く1万km離れたニューヨークで発表された文書だ。

 3月18日のFARAD発表はおそらく、前日の3月17日時点の米軍の無人偵察機グローバル・ホークによる収集データの解析によるものだろう。この日はオバマ大統領が菅総理での電話会見で、避難地域を50km圏内に広げるよう進言した日でもある。30万Bqの高濃度汚染地域はほぼすべて50km圏内に収まっている。米軍の立入禁止区域としては、半径50カイリ(93km)を指定しいるが、これは6万Bq以上の汚染地域圏と一致。どちらもドンピシャである。米国政府によれば、解析データは官邸に渡し済みで、政府もこれを認めている。

 その2日後の3月19日、農水省が動いた。それまでに官邸を通じた米国からの情報、17日に再開したSPEEDI(文部科学省 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の分析データを得ているはずだ。

 「家畜に放射性物質がかかった牧草、乾草、サイレージなどの飼料を与えることがないように」と畜産振興課長名で文書に出した。ここに稲わらが含めなかったことや畜産農家向けで稲わらを販売する稲作農家に通知されなかった農水省の落ち度をマスコミは指摘するが、問題はそこではない。問題の根源は、この段階で高濃度の放射性物質が広範囲に飛散することを農水省は知っていた点だ。その証拠に、文書は「東北」ならびに「関東」農政局宛てに送付されており、「大気中の放射線量が通常より高いレベルになる可能性が否定できない」とある。ただし、それがどこなのかまったく言及しなかった(同日、福島県の生乳並びに茨城県産のホウレンソウから規制値超過の放射性物質の検出の発表を行っている)。そうしなかった理由は、「放射線量のレベルの高低について農水省には判断する行政権限がない」からだという。

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