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江刺の稲

今こそ規模拡大より増収を目指せ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第184回 2011年08月22日

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スガノ農機(株)相談役の菅野祥孝氏が7月15日に亡くなった。本誌は、菅野氏がいて成立した。創刊以来多くの経済的支援を得てきたというだけでなく、同氏の土と農業、人生に対する思いが筆者を本誌の創刊に駆り立て、同氏の生き様に学んできたからだ。

スガノ農機(株)相談役の菅野祥孝氏が7月15日に亡くなった。本誌は、菅野氏がいて成立した。創刊以来多くの経済的支援を得てきたというだけでなく、同氏の土と農業、人生に対する思いが筆者を本誌の創刊に駆り立て、同氏の生き様に学んできたからだ。

そんな菅野氏が晩年に語り続けた言葉は、「規模拡大より増収を目指せ」だった。どれほど技術が進化しても農業をするにおいて人智が果たせることはせめて一割に過ぎない。恵みを与えてくれる作土作りに対する我々の怠慢を反省すべきと繰り返し述べられていた。さらに、人の努力の結果である“作土”作りについて、菅野氏は「土中環境」という言葉にあえて「土宙環境」という言葉を当てていた。その可能性の大きさを示すためであろう。そして、農業という仕事の本質は“土作り”であり、「土を作れば作物は勝手に育つ」のであると農業者の言葉を借りて伝えようとした。

同氏はその人生を通じて優れた農業者の言葉と仕事から学び、そこから確信を持って農業と人生、経営の本質を語り続けた。

あるとき、筆者に「米作日本一」の資料を示しながら、1960年代まで農業界はこぞって増収を目指していた。しかし、その増収コンクールである「米作日本一」はコメの減反政策の開始とともに廃止された。「良質米生産」と言えば聞こえは良いが、米生産者から「多収を目指す」という農業の本質的課題を見失わせる農業政策と農業指導が続けられてしまったことを嘆いていた。

同氏に「多収を目指す」ことが農業経営の本質であると確信を持たせたのは、出会ってきた優れた農業経営者が、土を作る(土宙環境を整える)ことで多収を目指す人々こそ、最もコストダウンが実現できており、しかも食味の高い良質農産物生産者であるという事実を見てきたからである。

本誌が“増収”をテーマにしたとき、少なからぬ人々が、増収を目指すと食味が落ちると指摘した。だが、それは多肥で多収を目指すからであり、そういう人こそ、土の力、土作りの果たす意味を知らぬまま農業をし、農業を語っているのだろう。

ところで、本年6月に公表された農業白書を読んでみた。そのなかで「農業所得増大のための取り組み」として生産コストの低減、販売価格の向上、加工や流通販売などへの取り組み─等々といった当たり前のことが書き連ねてあるが、白書のどこを見ても“増収”は取り組むべき課題としては語られていない。減反政策のなかで農業経営向上の第一に語られるべき増収に触れると自己矛盾になってしまうからだろう。

馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。いかにも農家を指導しているかのようなその白書を見ていると、つくづく農林水産省が農業の本質を見誤っていると言わざるを得ない。

本誌は農業経営の規模拡大を目指すべきだと主張する。我が国の経営単位があまりにも小さすぎるからだ。しかし、土作りを忘れた無原則な規模拡大は経営の自殺行為といえる。むしろ、菅野氏が言い遺したとおり、土を作り、1t取りを目指すような経営に取り組むことの意義を考え直してみるべきだ。それだけで生産コストは現在の半分近くになる。それが土を作ることを通して目指すならば、間違いなく品質にも反映し、肥料や農薬の使用量も減る。それこそ国際競争の時代に農業経営者がもう一度目指すべきテーマなのである。

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