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【江刺の稲】
原発事故に対する人々の反応
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第185回 2011年09月22日
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本誌は掲載後1年を経た記事はネット上で誰でもお読みいただけるようにしており、その記事に対するコメント欄を設けている。2006年2月号掲載の「スーパー読者の経営力が選ぶあの商品この技術」というシリーズで紹介した千葉県旭市の向後武彦氏に対して「予防原則派」という名前で書き込みがあった(7月16日)。
本誌は、原発事故後の政府の情報公開のあり方への批判をしてきた。また、チェルノブイリ原発事故に対する現地での除染対策についてもその報告書を翻訳掲載してきた。さらに、同報告書で最も現実的な除染方法として報告されているプラウによる反転耕を組み合わせた除染技術を紹介した。
地震、津波により被災された方々、そして原発事故による放射能汚染を受けた人々、とりわけ本誌としては農業経営者の皆様に対して何とかお役に立てないかと思う願いは多くの皆様と同じである。しかし、政府が当初、進めていた原発事故に伴う“風評被害”を抑えようという理由で、出荷制限をする放射線量の設定のあり方については、消費者に「安心」を語るだけでは済まされない。日本の農産物が将来にわたって世界のマーケットで信頼を得ていくための厳しい対応が必要であると主張した。
本誌は、これまで農薬の使用やGM作物に関しても、“科学的リスク管理”が適正になされ、その上で我々は合理的な判断をすべきという主張をしてきた。しかし、今回の原発事故は、原子力技術に対して政府自身あるいは専門家が“科学的リスク管理”を怠り、国民に対する誤った情報提供をしてきたことに大きな責任がある。
そうした批判は当然なされねばならないし、その保証や対策が行なわれるべきことは言うまでもない。でも、我々日本人がもっと根本的に覚悟せねばならないことは、放射能による汚染があるという事実の上で、どのようにその復興を進めていくかだ。その時も我々が寄って立つ立場は、科学的リスク管理がなされることである。
本誌のサイトに書き込みをされた予防原則派氏は、どの流通チャンネルを通じてかは知らないが向後氏のトマトを購入していたらしい。
「向後様のトマトは、美味しく戴いておりました。マルハナバチに受粉させているということは減農薬栽培していることが分かります。農業高校に勤めていますので、農薬を減らすハウス栽培がどれほど大変なことなのか、想像できます。しかし、今後は、生協さんの野菜は買わないことにしました。原発の近県の野菜を納入するなんて無責任だからです」
その上で、投稿者は、福島や近県の農家たちに、「まだ、余力のあるうちに、沖縄や小笠原、または、ニュージーランドなどで土地を租借し、あちらで、技術力の高い農業を始めることをお勧めします」と書き込んでいる。
本誌は、Made by Japaneseを語り、日本が持つ技術やブランド力を活かして海外マーケットを開発しようと呼びかけてきた。また、今回の震災を受けて海外での農業生産へ取り組もうという方がいるのなら、そのお手伝いもしようと思っている。
しかし、この予防原則派を名乗る人物の言説は、私は日本人として、そこでの再建を願う我が隣人たちがいるという現在、とても悲しいことだと思う。皆さん、この予防原則派氏の書き込みをご覧いただき、読者なりの書き込みをしてくださればとお願いいたします。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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