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【“被曝農業時代”を生きぬく】
ニューヨーク発「原発事故時の農業対策プログラム」入手!“農業者には農産物汚染から国民を守るミッションがある”
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第3回 2011年09月22日
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【達成可能な放射線量の低減】
理論的には、肉と生乳中の放射性セシウム汚染が3分の1に低減できた場合、この食品を消費する人への放射性物質濃度も3分の1に減少されることになる。人の年間線量の15%が外部被曝、85%が内部被曝であり、その90%が消費する牛乳や食肉からのものであると仮定してみよう。この場合、生乳と肉の放射性セシウム汚染を3分の1に減らすことができれば、全体で約60%の放射線量が低減できることになる。土壌から牧草へセシウムが多く移行する地域の場合は、この全体的な放射線量の低減は大きくなる(およそ80%超)であろう。
残念ながら、実状はこれよりも複雑である。高い値の内部被曝を避けるため、暫定規制値を超す放射性セシウムを含む肉や生乳の販売は違法であるが、特に現在の経済情勢下では、多くの零細農家は放射能レベルが規制値を超えている生乳も自家用にまわしていることが報告されている。このような人々のためにPB化合物を使用すれば、放射線量は先述のように60%、またはそれ以上、即時低減できるであろう。
【PB使用による多大な資源の節約】
PBの使用は、現在、生乳や肉のセシウム汚染目的で、別の手段に費やされている資金を大幅に節約できる。セシウム吸着剤使用の費用対効果は、現行の牧草地汚染レベル、吸着剤の製造及び流通コスト、吸着剤を使用しない他手法のコスト間で比較検討できる。
表1は、牧草がkgあたり250~1万Bqでセシウム137汚染した牧草地で放牧する牛からとれた生乳、肉中のセシウム137濃度を示している。これは500kgの牛が1日当たり70kgの牧草を摂取した場合(つまり、体重の14%)を想定している。また、推奨用量に沿ってPBを施用したときのセシウム137濃度も示した。これらのデータは、PBを適した手法で投与することによって、牧草中の汚染濃度が1500Bq/kgの牧草地で放牧した動物でさえ、暫定規制値を超えない生乳や肉を生産できることを明示している。
表1のデータに基づいて、年間のPBボリ投与と生産される「クリーン」な生乳の価値との費用便益比を計算することができる。ベラルーシでは、KFCFをドイツから1kg当たり7米国ドルで輸入しており、ロシアの工場からは20ドルで輸入している。6~7カ月の放牧のシーズンで使用されるボリは最多で8個、300gのPBが必要になるが、価格は2.50ドルだ(95年当時)。投与と輸送コストが、生産コストと同額だと仮定すると、人の消費(6カ月の放牧シーズン中、1日頭につき10の生産を想定)に適した生乳を約1800生産するための追加コストは9万ベラルーシルーブルである。この生乳は、約360万ルーブル(生乳1当たり2000ルーブル)の市場価値を持つことになるため、PBボリの使用によるコストと利益対比は1:40となる。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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