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イベントレポート

誌上採録 『月刊農業経営者』シンポジウム 農業は日本のお荷物などではない 私たちはTPPを恐れない!(前編)

東日本大震災から遡ること1カ月半前、1月29日(土)に『農業経営者』読者の会は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に関するシンポジウム「農業は日本のお荷物などではない、私たちはTPPを恐れない!~日本農業の敗北主義を超えて~」を開催した。東日本大震災の復旧・復興が急務ということもあり、菅直人前首相はTPPへの参加を断念したが、野田佳彦新首相はTPP参加に前向きに考えているとされている。東日本の復興の時期と歩調を合わせるように、農産物の関税ゼロ時代の到来は近づきつつある。その前に農業経営者はどうすべきなのか。あらためて考えてもらう意味でも、本シンポジウムを誌上にて掲載する。(まとめ/平山純、編集部)

パネラー

・ 阿部善文氏((有)板倉農産 代表取締役 宮城県登米市・稲作経営)
・ 橋本英介氏((有)沼南ファーム 千葉県柏市・稲作経営)
・ 片岡仁彦氏((株)アートソイル・福井県福井市・稲作/ソバ/ジャガイモ経営)
・ 宮治勇輔氏((株)みやじ豚 代表取締役社長 神奈川県藤沢市・養豚経営/農家のこせがれネット ワーク 代表理事CEO)
・ 浅川芳裕((株)農業技術通信社専務/『月刊農業経営者』副編集長)
・ 昆 吉則((株)農業技術通信社社長/『月刊農業経営者』編集長)

過去を振り返れば避けられない自由化の流れ

昆吉則(本誌編集長) 私どもがこのようなテーマでシンポジウムを開くと、農民のTPP賛成集会ととらえられ、必要以上に農業界での反発を買います。しかし、TPPに賛成か反対かを申し上げているのではありません。農業はいや応なく、自由化の波にさらされます。そして日本の農業が健全化するためにも、FTAやEPAを含めて、TPPによる自由化を進めて行くべきだという立場にあります。

 自由化に際しては、誰でも何らかの困難を背負うことになります。しかし、ただ安楽死を待つのではなく、これを機に我々は何ができるのか、何をしようとしているのだと考えるべきです。また、世間に語られている敗北主義的な農業について、ひとりでも多くの方々に理解をしていただきたい。今日は実際に4名の農業経営者の方々にも、お話をいただきます。まず、簡単に自己紹介と、TPPに賛成か反対かをお聞きしたいと思います。


阿部善文((有)板倉農産社長・宮城県登米市) 私自身はTPPに対しては、両手を挙げて賛成とは言えないところがあります。しかし、「いよいよこういう時代が来たのかな」という気持ちで受け止めています。家族経営で自作地7ha、借地で3ha、あとは地域の作業請負で10haを耕作しております。生産したコメはすべて、卸を経由せずに直接お客様に宅配便でお届けをしております。私の地域では、TPP反対に署名する回覧板が回ってきました。回覧板は次の家に行くと、前の人が書いたか書いていないか分かっちゃう非常に微妙な署名活動です。「あいつは名前を書いておらんぞ」となると、集落の中での立場も非常に微妙になるわけなんですが。

 実は私が実家に戻ってコメ作りを始めてからは、毎年激変の年でした。GATTウルグアイ・ラウンド交渉や米政策改革大綱など、今年はコメ作りが厳しくなるぞという中で経営をしてきたので、将来について自分なりのプランを考えていくなかで出た結論が顧客への直接販売でした。そして自分たちが生産する地域の人たちといい関係を築いていこうということでした。今、私どものコメを買っていただいている顧客数は2000以上です。TPPに関する報道があったとき、心配してくださったお客様からお手紙とお電話をいただきました。私たちは変わらず、お客様にコメを作り続けますよということでご安心をいただけました。ただ、これから行なわれることが我々にとって良い波なのか引き潮なのか、まだはっきりしていません。今後の動きをじっくり見ながら、間違いなく羅針盤と方向を見出そうと考えています。


片岡仁彦((株)アートソイル社長・福井県福井市) 私の地域は、兼業農家をほとんどが占めていて、農地の資産的な価値がすごく高いんです。そこで土地を借りて農業を始めようとましても、土地を借りることは困難です。それで今年、見切りを付けまして北海道で約50ha借地して、やっと自分が管理できる農地を確保できました。TPPについては、日本経済が成長するようなことであれば、農業も良くなるという考えで賛成しています。

宮治勇輔((株)みやじ豚社長・神奈川県藤沢市) 神奈川県藤沢市で養豚業を営んでいます。規模は日本の平均的養豚農家の半分くらいです。『みやじ豚』という形でブランド化を図り、毎月1回お客様にメールニュースを配信して地元の果樹園で月1回バーベキューを開催しています。東京のビジネスマンを中心に、100~200名ほどが遊びにきてくれます。それでおいしかったら買ってくださいね、レストランを紹介してくださいねという口コミで、お客様を広げています。今、毎月50店舗ほどのレストランと取引をして、あとはインターネットで売っています。

 同時に僕は日本の農業をかっこ良くて感動があって稼げる『3K産業』にすることを目指していまして、NPO農家のこせがれネットワークを立ち上げました。東京を中心に、マルシェの運営やレストラン、テストマーケティングの場所を作って、農家の子女、つまりこせがれが会社を辞める前に農業でやっていく自信と確信を持って、実家に帰ってもらう仕組みを作っています。全国各地を講演活動で回って、全国の若い農業者と地域プロデューサーのネットワークを作って、地域を農業を起点に元気にしていこうと動いています。

 TPPについては、賛成か反対かといわれると、一農業経営者からすると、どっちでもいいのではないかと考えております。


橋本英介((有)沼南ファーム・千葉県柏市) コメ専業農家で水稲47ha、作業請負が49ha、併せて90haくらいの作業面積です。また地域の200軒くらいの農家と契約しライスセンターも運営しています。TPP参加問題が急浮上していますが、父、つまり社長が会社を立ち上げた17年前から、こういう事態が来ると想定していると思います。高齢化もありますが、柏市で200haくらいの規模の農地で、これからコメを作って頑張ろうという人はほとんどいません。それが地域の現状であり、日本農業の現状だと思います。そういうところから、TPPについて賛成か否かと聞かれると、どちらかといえば賛成です。たしかにコメの価格は下がるでしょうし、うちの会社としても単価が下がることはデメリットも多くあります。しかし、そのほかの場面では、チャンスであると考えています。

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