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“雑草”を畑で育てて“商品”にする
しかし、実はそれ以上に力を入れたのが、約20年前、正勝さんが地元の仲間3人で始めていた「春の七草」の生産拡大である。「値段も決まっているし、毎年ニーズが増えていた。安心して作れる」からだ。
七草の出荷量は現在約14万パックと、13年前に高木さんが家業に入った時の3倍にまで増やした。今では年間販売額約4500万円のうち7割を占める経営の柱になっている。
さて、その七草である。ご存じ、セリ、ナズナ、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)、ホトケノザ、ハコベ、ゴギョウの7品目だ。別名“ぺんぺん草”とも呼ばれるナズナを筆頭に、スズナ・スズシロ以外はみな、あぜ道や畑に生える雑草だ。これが商品になるのだから農業は面白いが、実際に栽培して安定出荷しようと思うとかなり難しい代物のようだ。
七草の出荷を持ちかけたのは、神奈川県横浜市の仲卸業者だった。正勝さんは、従弟の宮沢豊彦さんの「やりたい」という熱意に押されて七草生産組合に加わった。
と言っても、当時は、スズナ・スズシロの栽培以外、地元に自生している草を見つけては摘み、年末、家族がコタツで暖をとりながらパック詰めをするという牧歌的な仕事だったらしい。富士山の湧水が豊富な場所だけに、清水でなければ育たないセリも大量に自生していた。
しかし、出荷量が増えると、“採集農業”では間に合わない。畑での栽培が始まった。そこからが一苦労である。雑草だけに、種も売っていない。まして栽培技術など研究されているわけもない。自家採種から栽培まで、試行錯誤を繰り返した。
「やってみると、ホトケノザもナズナもハコベも、種の保存が大変なんです。たとえばホトケノザは、種が落ちて2週間もそのまま放っておくと、種が死んでしまう。すぐに土と一緒にして通気性のいい土嚢に入れて保存しないと。ここ3年くらいで、ようやくほぼ完璧になってきましたが、日本中で、種を取っているところは何軒もないですし、しっかりとっておかないと大変です」
しかも出荷は、1年の中で正月明けから7日までの一週間のみ。そこに照準を合わせて7品目の収穫期をピタリと揃えなければならない。出荷日を絶対にずらすことができない契約栽培のようなものだ。リスク回避のため、大根やカブは出荷量の3倍くらい種を播くという。
それでも、「完璧に揃った年はないんですよ。何か一つは、今年はこれがダメだなっていうのがある。七草の作業は毎年8月頃から始まりますが、播種のタイミングを考えなければいけない10月から12月末の収穫までの3カ月は、1年で一番神経を使います」。
12月には、出荷予想量に合わせて新聞折り込みチラシでパートを募集する。多い日は140人近くのパートを動員する。
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高木伸行 タカギノブユキ
1968年、静岡県三島市生まれ。田方農業高校(静岡県)、農業者大学校(東京都)を経て22歳で家業に入る。雇用を前提にした農業経営スタイルを目指す。現在、経営面積約2ha。主に春の七草と葉ネギを生産。年間販売額は約4500万円。常時6~7名、七草の出荷ピークには1日約140人のパートを雇用。静岡県三島函南七草生産組合会長。2004年9月、三島・函南地区の20~30代の農業者で結成した「箱根ファーマーズカントリー」の会長も務める。
事業継承・新規起業ルポ
事業や産業は、その本質は変わらずとも、常に新たな展開がなされていく中で時代を越えて存続していく。特に、前進する事が困難となっている農業の世界には、それをなし得る新しい起業家たちの存在が不可欠だ。このコーナーでは、起業家としての精神を持ち、「暮らし」ではなく「経営」を引き継ごうとする後継者たち、あるいは新たに事業として農業を選んだ人たちをルポしていく。
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