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【“被曝農業時代”を生きぬく】
「ヒマワリに除染効果なし」(農水省)のウソ?ホント?旧ソ連、事故後のヒマワリ大増産、ホントの理由を明かす
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第4回 2011年10月25日
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先月、「ヒマワリに除染効果なし」との報道がマスコミを賑わした。
除染目的にとどまらず、ヒマワリを原発事故後からの復興の象徴として期待していた人々からは、落胆の声があがったと各紙が報じている。
「信じられない」「効果があると思って育てていたのですが…」
今回の報道は、農水省の試験発表「ヒマワリに吸収された放射性セシウムは、土壌に含まれる量の約2000分の1にあたることから、ヒマワリによる除染効果は小さいと考えられる」(9月18日)を受けたものだ。
農水省の数値は、移行係数(農作物中のセシウム濃度÷土壌中のセシウム濃度)をもとに算出されている。「520bq(ヒマワリ10kg※当たりのセシウム吸収量)÷1067820bq(1平方メートル当たりのセシウム濃度)≒0・000487」(※1平方メートル当たりのヒマワリ生鮮収量)となり、除染率は約2000分の1というわけだ。
矛盾する農水省内の除染見解
こんなに低いのに、もともと高い効果が期待された科学的な根拠はあったのか。
1996年にウクライナで行なわれた栽培試験では、吸収量は平方メートル当たり319bqである(出典1)。農水省の結果よりも少ない。他の文献でも大差ない。国際的な文献を猟歩している農水省の研究者なら百も承知の結果である。実際、5月に行われた実験前の説明会でも農水省は「期待はできない」と断言していた。
にもかかわらず、説明会の直後に行われた飯舘村でのヒマワリ播種後の会見で鹿野農水相は「実験で成果をあげたい」と意気込みをみせていた。ウクライナを訪問した篠原孝農水副大臣(当時)は、ヒマワリと同様に除染効果があるとされる菜種について「福島でも育てなければならなくなると思う」と語っていた。実験目的を記した文書にも、「セシウムを吸収する能力が高いと考えられている植物」と明記している。
それが一転して、「ひまわりの栽培は効果が期待できないとして、実用化を見送ることになりました」(農水省)である。梯子を外したも同然だ。希望の象徴とされてきたヒマワリが効果なしの烙印を公式に受けたことで、当事者から戸惑いの声があがるのはうなずける。
ヒマワリに除染効果の計算カラクリ
とどめを刺したのは、2000分の一という数字だ。単純に理解すれば、1年1作として100%除染するのに2000年かかるという意味だ。これでは望みはない。
しかし、この数字は恣意的だ。実験は平方メートル当たり100万ベクレルを超える極めて高濃度の汚染土壌で行われている。同じ吸収量でも、除染効果を「農作物中のセシウム濃度÷土壌中のセシウム濃度」で表すなら、分母が大きい方が過小評価される。仮に1万ベクレルの濃度で同じ結果が出れば、除染効果は100分の5となる。筆者が指摘してきた「食料自給率の計算のカラクリ」と同じだ。
先のウクライナの論文では、0.24(ヒマワリ植物体セシウム÷土壌セシウム)で24%という結果が示してある。パーセンテージ上、農水省発表の480倍(0・24÷2000分の一)となる。神戸にある理化学研究所の元研究員らで作る民間のグループも、効果は20%から最大50%と発表している。いずれも吸っている量はほとんど変わらないのに、土壌濃度によってパーセンテージが変動しているだけだ。元から100万ベクレルものセシウムを吸い込む化け物みたいな作物など存在するはずがない。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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