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江刺の稲

農業界は地すべり的に変化する

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第187回 2011年11月25日

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TPPに絡む政界そして農業界の“騒動”を見ていて、93年のウルグアイ・ラウンド農業合意に先立ち、農業関係者がいきり立ち、国会では「一粒たりとも米は入れない!」などと全会一致で三回も決議していたことを思い出す。動員をかけられて、東北某県の農協青年部のリーダーだったO君が「動員で交通費をもらえたから遊びに来たよ」と言って、我が貧乏事務所の石油ストーブでスルメを焼いて一杯やったことも懐かしく思い出される。
TPPに絡む政界そして農業界の“騒動”を見ていて、93年のウルグアイ・ラウンド農業合意に先立ち、農業関係者がいきり立ち、国会では「一粒たりとも米は入れない!」などと全会一致で三回も決議していたことを思い出す。動員をかけられて、東北某県の農協青年部のリーダーだったO君が「動員で交通費をもらえたから遊びに来たよ」と言って、我が貧乏事務所の石油ストーブでスルメを焼いて一杯やったことも懐かしく思い出される。

ご案内のとおり93年の12月14日の深夜、細川総理大臣がウルグアイ・ラウンド農業合意をする旨、記者発表した。現在のTPPに対する農業界の反対運動や米先物市場への反発がその頃のこととダブって見える。票目当てに反対のパフォーマンスをする政治家たち。繰り返される政治家と利権組織の愚行を眺めているのは僕だけではあるまい。

ウルグアイ・ラウンドの後も、6兆円を超す対策費という補助金の分捕り合戦があり、それがその後20年間の日本農業の改革にどれだけの意味を持ち得たかを考えると悲しくなる。すでに「TPPに参加するならどのような農業強化策を講じるのか」などといった、対策費の引き出しに力を果たしたと主張したがっている政治家たちも少なくない。

一番大事なことは、政治家や農水省は余計なことをしないこと。農業経営者とマーケットに任せれば、日本農業は健全化するのだ。

TPP参加でその9割が外国産に乗っ取られると農水省が試算するコメに関しても競争力はあると考えている。5倍も価格差があると比較されている外国産米とは、93年の不足時に輸入されて不評を買ったインディカ米のことである。それこそコメと麦ほどに商品としての意味の違う日本人が好む高級ジャポニカ米とインディカ米を比べること自体が馬鹿げているのである。さらに、真の競争力とは単なる価格競争ではなく、マーケットでの評価のはずだ。外食産業などが安いコメを求めているというが、本誌でも関東以南の読者に勧めている三井化学のミツヒカリのような品種では、15俵、16俵を取るのは特別のことではない。10a当たり1tに近い収量があれば、コストは半減するということだ。さらに、今、飼料米として作られている多収品種の中にもそこそこの食味を持つものもある。でも、減反政策があるために、農水省は増収してコストを下げるという当たり前の指導ができないでいる。だが、TPP反対運動のガス抜きの後、農業界は地すべり的に変化していくだろう。

僕が受け持っている月刊誌ウェッジの「さよなら『貧農史観』」という連載の11月号(10月20日発売)の記事として「再開した米先物市場 農協組織の反対に理なし」という原稿を書いた。農協界が先物市場に反対するのは彼らの既得権益を守るためである。そして、農協組織内からの圧力で先物市場へ参加ができないでいる少なからぬ単協は、その記事を支持するだろうといった内容だ。

しかし10月31日、福井県のJA越前武生が経済事業のすべてを100%子会社の「コープ武生」に譲渡することを正式決定したと報道された。当然だろう。また、大潟村農協の組合長である小林肇氏が、先物市場に自分のコメを上場し、「農家の理解と商社や卸が一緒にリスク回避出来るような仕組みを考えていかないと活発な上場取引に繋がりません」と自身のブログで語っている。もう農業の新時代は始まっている。

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