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韓米FTAでは1531品目の対象品目中、除外はコメのみだが、一定数量の輸入を超過すれば現行関税を維持できる「関税割当」、韓国のオフシーズンのみ関税を下げる「季節関税」を認めさせた。韓チリFTAでは1432品目中、コメ、リンゴ、ナシなど21品目は除外とし、乳製品、畜産品など373品目は「WTO交渉妥結後まで交渉を保留」とした。
これができたのは柑橘中心の済州島を除き、どの地域も平均的にコメ、野菜、畜産を営んでいるからだろう。日本の場合、畑作物は北海道、甘味資源作物は北海道や沖縄県、鹿児島県の離島など作物の“地域的偏在”が多く、それだけ除外にしたい品目も多い。日本政府には韓国以上の交渉力が必要となる。果たしてどこまで粘れるか?
2つ目は、産業と農村維持を区別した振興策だ。韓国はFTA対策費として123兆ウォン(現在の日本円で約8.4兆円)を確保した。対策費は、(1)品目別の競争力向上(品質向上や流通改善につながる施設整備・技術開発を支援)、(2)農家の体質強化(規模拡大や施設整備により国際競争力を身につける)、(3)FTAで被害を受ける農家への補償、という3つの方針に沿って使われる。
ただし、すべての農家が対象ではない。たとえば(1)と(2)の支援策は担い手が対象で、高齢農家や小規模農家には別のメニューを準備した。廃業を希望する農家には「廃園支援金」(チリからの輸入の多い果物が対象)を、高齢農家には農地を担保に年金を生涯支給する「農地年金制度」を導入した。つまり産業政策と地域政策を明確に区別したのだ。
3つ目は政府の情報発信と国民の勉強だ。韓米FTAはいまだに韓国国会で批准されていない。野党側がISD条項(韓国に投資した米企業が韓国の政策で不利益を被った場合、国際仲裁機関に訴えることを認めた条項)が「韓国に不利」と条項の撤廃を求めているからだ。日本でもこの条項を巡り「医療や保険の制度が破壊される」と懸念する声がある。
韓米FTAの合意は4年も前のことだが、詳細な情報が伝わらず、国内に混乱をきたしている。これは日本にとって反面教師だ。国は逐一情報を発信し、それに対し国民は監視の目を向けていく必要がある。
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青山浩子 アオヤマヒロコ
農業ジャーナリスト
愛知県岡崎市生まれ。京都外国語大学英米語学科卒業。日本交通公社(JTB)勤務を経て、韓国延世大学に留学。帰国後、(株)船井総合研究所などに勤務。在職中、農業関連のコンサルティングに携わる。1999年に独立、農業関連のフリージャーナリストとして活動中。著書に、『「農」が変える食ビジネス』(日本経済新聞社)、『農産物のダイレクト販売』(共著、ベネット)、『強い農業をつくる』(日本経済新聞出版社)がある。農業関連の月刊誌、新聞などに記事を連載する一方、茨城大学農学部の非常勤講師、韓国農民新聞の客員記者も務める。
http://aoyama.my.coocan.jp
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