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【“被曝農業時代”を生きぬく】
チェルノブイリ原発事故後に「経営改善した!」高濃度汚染地帯ベラルーシ農家の営農技術
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第5回 2011年11月25日
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日本のジャガイモ(野菜)に対する暫定規制値はkg当たり現状500Bqである。それに比べて、ベラルーシではプロジェクト前にすでに10~69Bqであったにもかかわらず、その値を低減させるための技術開発と営農活動が個別具体的に行なわれていった。
油加工で放射性物質を最大600分の1に低減
ジャガイモ以外では、非食用の工芸作物栽培も行なわれた。
「工芸作物生産を目的にした汚染地の利用は、科学的にも実用的にも興味深い。過去10年間ベラルーシでは、国際プロジェクトの一環として、菜種をバイオディーゼルやバイオ潤滑剤へ加工するアイデアを実現しようとする試みがあった。環境に対する安全性は高いが、鉱油由来の製品との価格競争には勝てない。現在ベラルーシ市場では、食用油が競争力を発揮しており、食用油用の菜種加工は長期的にも農村経済を活性する可能性がある。95~01年にIAEA(国際原子力機関)プロジェクトの枠組みの中で、この研究と製造が行なわれた。菜種の藁や鞘には吸収したセシウムの70.2%とストロンチウムの88.3%、根にはそれぞれ26.5%、5.9%が蓄積される。土壌植物ならびに飼料から動物へ、そして人間への食物連鎖に入り込む可能性があるのは、菜種油に含まれるセシウム137のわずか3.2%、ストロンチウム90の5.8%のみだ。菜種の栽培、加工方法の有効性が比較検討された(表2)」
その方法と成果はこうだった。
「研究された化学肥料を用いると菜種中の放射性核種濃度は45~59%低減した。放射性核種蓄積が最小の菜種品種の選択により、菜種の放射性核種の吸収は2.5~3分の1に抑制でき、油製品加工技術を用いると250~600分の1に低減することができる。セシウム濃度が平方メートル当たり55万5000Bq、ストロンチウム濃度が5万5000Bqの汚染の強い壌質砂土で栽培された菜種でさえ、その精製油サンプル中の測定値は検出限界を下回った。通常、濃厚飼料に用いる菜種油糟の添加物は平均10%であるため、油糟中のセシウム137とストロンチウム90の濃度は許容限度内にあり、全動物へ制限なしに与えることができる。菜種栽培と加工は農家にとっても加工業界にとっても有益な技術だ。農家は菜種1t当たり30ユーロの純収益を受けることができ、加工業者は食用菜種油1tを103ユーロで販売できる。プロジェクト進行中、汚染地域の菜種生産区域は4倍にも拡大した。菜種の栽培と加工により、汚染地域でも放射性核種を含まない食用油が作れるようになった。IAEAによるプロジェクトは科学的な発展、技術的な判断、地元のリソースの最大活用、ベラルーシと国際機関の協力体制という側面で成功を収めている」
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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