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海外レポート

オランダを合わせ鏡として日本の農業を見る 前編 

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第1回 2011年12月27日

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人は鏡で己の姿を確かめその居住いを正し、またその姿で己を語っている。しかし、鏡に映る姿は現実の自分ではない。もう一枚の合わせ鏡に映る姿で己の実像を見ることができる。初めて海外を旅した人々がにわかに愛国者になったり、日本への幻滅を感じたりすることが多いのは、旅先の外国が合わせ鏡となって日本や己自身を意識させるからだ。九州とほぼ同面積という小国ながら世界2位の農産物輸出国。トマトをはじめ農産物の収量が多いことでも有名な、先進国農業の象徴とも言えるオランダ。そのオランダを合わせ鏡にして日本の農業を以下数回に分けて考えてみたい。

日蘭の大きな収量差はなぜ?

 筆者は昨年の11月にオランダを訪ねた。同国の経済・農業・イノベーション省の招待で、それは筆者にとって初めてのオランダだった。

 オランダ農業のほんの一部を見ただけであるが、旅の感想を一言でいえば、日本農業は先進国のそれと言うに足る技術レベルにはないという敗北感だ。さらに、保護された安楽さの中でチャレンジ精神を失った“日本病”とでも言うべき日本の農業。そして“精神の鎖国”とでも言うべき精神状態の中にいる日本を改めて痛感させられたことである。

 国際連合食料農業機関(FAO)の統計で我が国とオランダとのトマトや小麦、ジャガイモの平均収量の差が大きいことはかねて知っていた。しかし、現地に行くことで、日頃、「敗北主義が利権化している日本農業」などと言って“負け”を認めたくはない筆者といえども、むしろ素直に負けを認めるべきだと思った。それは気象条件や品種の違いなどの理由を語る以前の問題を含めてである。

 図1を見ていただきたい。これは、FAOのデータから日本とオランダの小麦とジャガイモとトマトの10a当たり収量を1860年から比較したものである。単位は10a当たりに換算してある。

 まず小麦に関して。2008年で比較すると、オランダの10a当たり平均収量は828kg。日本の平均は323kg。農水省の発表による平成23年(11年)産小麦の全国平均収量は351kgだ。北海道の417kgが都府県265kgを引き上げているのである。そう言う北海道といえども400kg台。オランダの平均収量の半分にも足りないのである。

 ちなみに、世界2位のオランダは1位のベルギー(846kg)とともに800kg超で群を抜いて多収であり、それに次いでアイルランド、デンマーク、英国、ドイツ、ニュージーランド、フランスなどの順で700~800kg台で続き、日本の323kgは42位である。ちなみに米国は日本よりさらに低収量の288kg(51位)だが、米国はオーストラリア(160kg・85位)などとともに潅水設備が無ければ大幅に減収する砂漠地帯での小麦作である。

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