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特集

新時代を切り開く TPP後のわが農業

TPP(環太平洋パートナーシップ)参加国の増大、WTO新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の事実上の終焉を受け、世界はより自由な地域経済圏形成の時代に突入しつつある。こうした環境変化を見越して、農業経営者は何を考え、どう動いているのか。新時代を切り開く5人に聞いた。取材・まとめ/清水 泰、編集部

わが農業(1)絶対にコメを例外扱いしてはならない!海外に輸出できる絶好の機会を逃すな(株式会社庄内こめ工房 代表取締役 斎藤 一志氏)

【TPPは農政転換の最後のチャンス】

 私は山形県でコメ農家グループの代表をしていますが、TPPには最初から賛成です。反対派の急先鋒であるはずの立場の人がなぜ、と思うかもしれませんが、私の認識はこうです。コメの生産現場ではコストを大幅に引き下げる構造改革を実施しないと、若手農業者が水田農業を継続できない状況に陥っています。今のままでは、若手が経営できない、つまり、稲作は未来のない産業となる強い危機感を持っているからです。

 TPPに関係なく、専業農家では食べていけずに兼業農家になって工場に勤めたり、離農する人が後を絶ちません。コメ生産者の平均年齢は専業で70歳ですから、猶予はあと5年くらいでしょう。にもかかわらず、改革のスピードがあまりに遅い。若手農業者が農業で食べていける環境をつくって残すことは、私たち世代の責任でもあります。国が高価格でコメを全量買い上げる食糧管理制度の時代から形を変えて続いてきた戦後農政の転換には、TPPのような外圧を活用するしかありません。TPP参加はその意味で、最後のチャンスだと思います。

 コメ生産者の問題は、経営規模が小さすぎることです。よくいわれるのは、小規模兼業農家の問題です。農業収入では絶対に利益の出ない農家が、金融機関から借り入れをして農機を購入する。下手すればその減価償却費だけで決算は赤字、彼らは農業の赤字を兼業収入で補てんしながら農家を続けています。

 他産業で得た収入をあてにして売り込む農協も農協です。生産コストが高すぎて経営が成り立たない彼らも、直接支払い(農業者戸別所得補償制度)の対象になります。所得を下支えして経営を安定化させるという本来の目的を逸脱しています。

 そしてもう一方の本質的問題は、20ha規模の経営を志した農家でも、相場の下落や生産調整でフル生産できないなどの要因から収益性が落ち、思ったような収益が上がっていないことです。


【規模拡大のための政策誘導を】

 私は、グローバル化に対応して、農業分野もコストを下げながら競争力を高め、国際市場で戦っていくのが経営者として当然の姿だと思っています。

 庄内こめ工房は約120戸のコメ農家を束ねて、出荷・販売を一手に引き受けています。数百t単位のコメを複数の外食産業に販売することで、経営の安定化を図ってきました。肥料・農薬の共同購入や機械の共有によるコスト削減は当たり前。生産調整を受け入れながら機械の稼働率を少しでも上げるため、大豆などから加工米、飼料用米、輸出用米を作るコメ転作に戻しています。海外輸出は現行の法律でもできます(輸出用米の作付は減反カウントされる)。円高で輸出環境がいいとは言えませんが、海外市場をみながらTPP参加国や中国をターゲットに、輸出機会を増やしたいと考えています。

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