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私の研修先は80種類(品目)の野菜栽培と花の施設園芸を手がけるミュンヘンの会社でした。研修前年に社長が亡くなり奥さんが会社を継いだのですが、その年の12月に経営が行き詰まって廃業することになりました。社長から「今年は赤字だったので、これ以上、赤字が拡大しないうちに辞めます」と廃業の理由を聞かされた時は、普通に「農業を辞める」と言えることが驚きというか「目からウロコ」でした。
父親も農業をしていましたし、私も農業者になりたいと農業高校から大学の農業学科に進学しました。農業収入が赤字でも農家を続ける人は大勢いましたが、ドイツの会社のような辞め方は聞いたことがなかったからです。
廃業後の処理も一般的な企業倒産のケースとほぼ同じ。資産である農地の大部分は社長の息子に市場価格で売却され、残りは他の農場主に売却されました。息子はすでに新会社の経営者として農業をスタートさせており、親子間であっても別会社に売却されたわけです。
EUでは、経営者は市場原理で淘汰されますが、ゾーニング制度により農地は農地としてしか売買されないので、農業資産は守られます。そして商業地が農地に戻されることはあっても、農地が商業地に転用されることはありません。実際、研修先の農地は、元ドイツ国鉄の車両基地でした。
【赤字経営の農業者は市場から撤退】
赤字経営の農業者は市場から撤退する、その代わりに再チャレンジや新規参入の機会を増やす。農地の転用を厳しく制限する一方で、正当な価格での農地(売買・賃借)の流動性を高める。これらは農業を守り、発展させるための基本的な仕組みだと思うのですが、日本では進んでいないのが現状です。
【マイスターから農業の社長業を直伝】
農業を経営することが常識のEUの中でも、「マイスター制度」による人材育成がドイツ農業の強さを支えていると思います。日本から来たドイツ語もろくにできない私に対して、実に懇切丁寧に農場経営について教えてくれました。特別に私が気に入られたわけではありません。研修先のマイスターは指導者でもあり、「後進を育てる」ことがマイスターに課せられた最大の義務だからです。
彼の教える内容もまた、日本の常識にないものでした。私は農業高校や大学で栽培技術を学んだのですが、彼は農業のマイスターとして顧客に農作物を売るためのマーケティングや、農場で従業員に心地よく働いてもらうための雇用形態の重要性を説きました。栽培技術の話はほとんどありません。他の研修先で学べばいいと言う。こうして農業経営を学んだ人がマイスターとして社長になるコースができあがっているのです。
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