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【土門「辛」聞】
「残り物に福あり」という残存者利益を誰がつかむのか
- 土門剛
- 第88回 2011年12月27日
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所得補償の面積要件、強化へ
質問 2012年、農業や農政はどう展開しますか。
土門 今年1年も環太平洋パートナーシップ(以下、TPP)の話題で持ちきりだろうね。大きなヤマは、3月から4月。ちょうど米国議会で、日本がTPP交渉に参加資格があるかどうかの「事前審査」の結果が出てくる時だ。TPPは決して農業だけの問題ではないことが、このときに分かり、農業界だけでなく産業界も大騒ぎすると思う。
質問 農業以外にも問題があるということですか。
土門 TPP問題は、関税ゼロをめぐる産業界vs農業界の対立という位置づけで見られがちだが、全体からみると、農業の問題は1割ぐらいかな。大半は米国が目指す市場統合のルール作りが大問題となり、その決着次第では産業界が深刻な影響を被ることになるのだ。
質問 では、農業には影響がないということですか。
土門 そんなことはない。特に農協や業者には、ね。ただ農業者は事情が違ってくる。TPPで関税がゼロになっても、一応、農家には戸別所得補償が打たれる。ただ問題は、そのカバー範囲と補償額だ。昨今の財政状況からすれば、今のような手厚い所得補償は期待できない。面積に補償単価をかけたら青天井で補償額が出てくるというのではなく、一戸当たりの補償上限が決められてくるのではないかな。ひょっとして公務員や一般企業で勤めた場合の標準的な所得をベースにして補償額をはじき出してくるかもしれないよ。
質問 国営農業の公務員みたいですね。
土門 いずれそうなると思う。現行のままの手厚い補償を打とうとすれば、最低でも2兆円規模の財源が必要となるだろう。ちょうど消費税2%分ぐらいの財源規模だ。国の厳しい台所事情で、同様にすべての農家に所得補償することは、納税者の理解が絶対に得られないと思う。いずれ補償対象を絞るし、補償単価も下げてくることは目に見えている。
質問 品目横断的経営安定対策の都府県4ha、北海道10haという足切りのようなものが導入されるということですか。
土門 それがベースになると思うよ。民主党政権が変わって、まともな政治家が出てくれば、もう少し高めに足切りしてくる可能性も十分にある。ただ、現行所得補償も、評価すべき点はいくつかあった。その一つは、補償金の流れを変えた制度設計で、農協だけでなく、他の金融機関を交付窓口としたことは、自民党政権ではできなかったことだ。
質問 戸別所得補償、品目横断的経営安定対策を足して二で割れば理想的な直接支払いができるのですか。
土門 その通り。正しい答えは、その両者の長所を合わせることにある。マイナス部分は、極力引き継がないこと。少なくとも従来の集落営農的な施策は絶対にやめるべきだ。
質問 理想的な集落営農とはどういうものでしょうか。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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