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【江刺の稲】
Fukushima Atomic-aid valley
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第188回 2011年12月27日
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どんな災いも福となる。農業から学んだことである。僕自身を含めて人生なんてほとんどの人にとって困難の連続。それが当たり前だ。思い通りなんて行くことの方が少ない。商売がうまくいかなかったり、生きることに疲れたり人生をはかなんで自ら命を絶つ人もいる。それは心が病んでいるからであり病気なのだ。
僕自身もそうであったが、人生が嫌になり何をするのも億劫になってしまうことがある。今がそうである人には、「疲れているんだ、無理をせず休めば良いんだよ」と言ってあげたい。そして、今が上手くいってなくとも、「諦めなければ失敗とは言えないよ」と。時を待てばよいだけだ。
こんなことを言うのは、農業には本来廃棄物というものは無いわけだ。農業にはゴミなんてものはなく、その生産過程から出てくるものはすべて副産物。塵芥や糞尿だってやがては土に戻り土を豊かにする。その適正な利用の知恵や技術というものは必要だが、農業の基本はこの循環を信じることであり知恵である。
さらに話を飛躍させよう。
福島で人類の作り出した科学技術の成果とも言える原子力発電が未曾有の不幸をもたらしている。そこで放出された放射性物質はこれから長きにわたって福島県だけでなく人々を苦しませることになる。その被害を受けた人々に最大限の補償がなされることは当然である。でも、言い方は気を付けねばならないが、この災いが大きなものであればこそ、それを福に変える手立てを考え出すべきなのだ。たとえば、こんな考え方は出来ないのだろうか。
福島で起きた事件は不幸なことであるが、モンスーン地帯で発生した原発事故はこれが歴史上初めてのことだ。そして、これからもアジアの多くの国々では原発開発は進み、そしてやがては事故が起きるだろう。今回の事故があればこそ、その安全対策はさらに進められるだろうが、ゼロのリスクがない限り、事故はあり得るのだ。
だとしたら、今回の福島での不幸な体験によって生じてしまった“フクシマ”というフィールドは人類の未来にとってぜひとも必要とされる研究材料なのだという考え方をするのは不謹慎だろうか。
オランダに、フードバレーと呼ばれる農業や食品産業の研究機関を集積させたエリアがありそれが同国の農業を大きく成長させている。
そのビジネスモデルにならって、福島県内に「福島原子力事故救済研究学園都市」とでも命名する研究機関を集積した地域を開発し、そこに世界中の企業や政府機関からの研究投資を呼び込むのである。
先述のとおり、福島は他のどこにもない不幸な条件を抱えている。でも、それは原子力事故を克服するための研究をする人々にとっては最高の研究フィールドなのである。また、医療分野だけでなく、様々な産業分野の世界中の企業や政府機関は自らの利害を考えればこそ、そこに集まってくるだろう。
そうした研究都市開発に投資を呼び込むことで大きな経済効果をもたらすであろうし、福島に他の産業立地は難しくとも研究開発に伴う雇用も生み出せる。事故に伴う健康被害を克服することだけでなく自然環境や農業あるいは人々の社会生活の安心をテーマにした研究を含めて、その研究成果の一番の恩恵に与るのは福島県民であり日本人である。そして、不幸な体験を人類の未来に生かすことにもつながるのである。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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