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【“被曝農業時代”を生きぬく】
暫定規制値超のコメ検出! 土壌の性質が左右する放射性セシウムの動きを理解せよ
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第6回 2011年12月27日
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福島県産米から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された。行政による“安全宣言”の発表はむなしく、農作物の放射能汚染の問題解決への道のりは険しい。この状況に立ち向かうためには、放射能汚染の科学的な理解の基本に立ち返る必要がある。農作物の汚染を引き起こす放射性セシウムは土壌でどのような挙動を示すのか。土壌の性質によってどう違うのか。原発事故以来、放射性物質と土壌について最新の知見を取材してきたサイエンスライターの佐藤成美氏がレポートする。
放射性セシウムの土壌中のふるまい
■ セシウムは地表近くにとどまる
福島第一原子力発電所の事故では、放射性ヨウ素(ヨード121)や放射性セシウム(セシウム134やセシウム137)などの放射性物質が大量に放出した。今では、事故の状況もだいぶ明らかになり、原発から放射性物質が大量に放出される恐れも大幅に減った。また、半減期が8日と短い放射性ヨウ素は、大気中、土壌中とも事故前と変わらないレベルになった。しかし、セシウム137の半減期は約30年で、土壌の中に長く残留する可能性があり、長期に渡ってその挙動を知る必要がある。それには、1850年代に行われた大気核実験後の日本の調査やチェルノブイリ原発事故後の海外の調査のデータが参考になる。核実験による放射性セシウムは、30年たっても地表近く30cmほどしか動いていなかった。チェルノブイリ事故後の多くの調査でも、セシウムが土壌中で下方へ進む速度は1年で1センチ以下と報告された。放射性セシウムは土の中では動きにくく、土壌深くに移動したり、植物に吸収されたりするのはごくわずかだといえる。
原発の事故後、大気中に放出した放射性セシウムは、土壌に降り積もり、雨水とともに土壌中へと移行した。移行したセシウムは、ほとんど土壌の表面近く、ごく浅い部分にとどまっていると考えられている。
■ セシウムは粘土に引きつけられる
セシウムは原子番号55のアルカリ金属で、カリウムと似た化学的性質をもつ。1価の陽イオンとしてふるまい、土壌の中の鉱物と反応する。一方、土壌の粒子は、負(マイナス)の電荷を持っていて、陽イオンをひきつける。これは、土壌が養分を保持するための大切な性質だ。土壌中のカリウムイオンやカルシウムイオンなどの陽イオンは鉄やアルミニウムの酸化物や有機物(腐植物質)に引きつけられるが、他の陽イオンが来ると簡単に置き換わる。ところが、セシウムイオンは粘土鉱物に強く引き付けられ、かたく結合して簡単に離れない。粘土鉱物といってもいろいろな種類があるが、2:1型層状ケイ酸塩にセシウムイオンを強く引きつける性質がある。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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