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放射能汚染で何より心配なのは、農作物の可食部への影響だ。移行係数を使うと、作物の食べるところに土壌中の放射性セシウムがどれだけ移行するかが推定できる。移行係数とは、土壌中の放射性セシウムの濃度に対する作物の可食部の放射性セシウムの濃度の割合をいう。たとえば、白米の移行係数が0.0026のとき、土壌1kgあたり放射性セシウムが20000ベクレルの濃度の汚染水田でイネを栽培すれば、白米の放射性セシウムの濃度は1kgあたり52ベクレルということになる。土壌から農作物への移行係数は国際原子力委員会(IAEA)がテクニカルレポートで公表している。また、農林水産省などでも、農地土壌中の放射性セシウムの野菜類や果実類への移行係数を公表している(表1)。
ただし、移行係数は作物や土壌の種類により変わる。作物の放射性セシウムの吸収量は作物の根のまわりの放射性セシウムの濃度や溶けやすさ、根の放射性セシウムの吸収能力などが影響する。一方、前述のように土壌の種類によって放射性セシウムの土壌への吸着は変わり、同じ農作物であっても、土壌の放射性セシウムの吸着(RIP)が小さくなれば、移行係数は大きくなる。そこで、土壌から農作物への放射性セシウムの移行を考えるときは、土壌と植物の両方の特性を考慮することが必要となる。
放射性セシウム汚染の農地を除染する
■ 対策を講じるために
農業の再開に向けて対策を講じるにあたって、農作物による放射性セシウムの吸収を長期にしかも安定的に低減させる実用的な方法を選びたい。そのためには、放射性セシウムが土壌から失われたり、溶出したりする要因を考慮するとよい。
放射性セシウムが土壌から失われる一番の要因は、放射性セシウムが壊変することだがこれには数十年もかかる。そのほか、植物が放射性セシウムを吸収すること、放射性セシウムが水とともに出ていくこと、粒子として下方へ移動することや飛散することなどの要因があげられる。
また、土壌中の粘土鉱物の組成やカリウムイオンやアンモニウムイオンなどの共存イオンにより、土壌の放射性セシウムの吸着が小さくなると、放射性セシウムは溶出しやすくなる。そこで、この溶出を抑えれば、放射性セシウムの農作物への移行を抑制できる。
チェルノブイリの事故では、原発周辺の牧草地を中心に対策が行われ、日本でも参考にされている。しかし、日本はチェルノブイリと違って降水量が多い。また、黒ぼく土や水田、褐色森林土も日本独自の土壌なため、対策の実績はない。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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