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■ 農地の除染法もいろいろ
放射性セシウムを除去する対策として、いちばん手っ取り早いのが、汚染した表面の土を取り除く「表土除去」だ。これはコストが高く、除去した土壌も処理しなければならない。また、深く耕して、放射性セシウムの濃度を薄める「深耕」、さらには表土を耕し、汚染土壌の上に汚染されていない土をかぶせて汚染土壌を閉じ込める「反転耕起」がある。土をかぶせることは、放射性セシウムの放射線を遮蔽する効果がある。なお、埋めた汚染土壌中の放射性セシウムは、土壌中に固定されているので、地下水への流出や作物による吸収の恐れはほとんどない。
作物への放射性セシウムの移行を抑制するためには、まずは放射性セシウムを吸収しにくい品種を選択することだ。また、土壌中のカリウムの濃度が低いと、植物によるセシウムの吸収量が増加することや、アンモニウムイオンは土壌に保持されるセシウムイオンを追い出す力が大きいことが知られる。そこで、カリウムの施肥やアンモニアイオンの量を抑えたりすることも放射性セシウムの移行を抑える効果がある。ゼオライトのようなセシウムを吸着する資材を使う方法もある。ただし、これらの効果は土壌の性質によって変わるので要注意だ。たとえば、カリウムの濃度が高い土壌では、カリウムの施肥の効果は小さい。
放射性セシウムを植物に吸わせるファイトレメディエーションや水を流して表面の土壌を流してしまう代かきなどの方法もあるが、技術は難しい。
農林水産省は、農地の土壌の放射性セシウムの除染技術の実証試験を行った。その結果によれば、表土除去により放射性セシウムの濃度が75%低減したが、ヒマワリが放射性セシウムを吸収する効果はほとんどなかった。また、代かきは粘土質の土壌で効果が大きかった(表2)。
土壌中の放射性セシウムの挙動は、土壌の種類により異なる。農地により土壌もさまざまだ。どこにでも通じる除染の方法はないので、場所によって対応を変える必要がある。土壌の放射能汚染への対策は、おのれの土を知ることから始まる。専門家にも積極的に相談してみよう。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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