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カリフォルニア農業から日本を見つめる

アメリカの真面目さに学ぶ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第1回 1995年10月01日

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 チャレンジャーを多く見掛けたのは、北部海岸地域のサリナス等の野菜地帯やワトソンビルなどのイチゴや野菜を作る高収益農業地帯が多かった。収益性が高い農業地帯であればこそ新しい技術の導入も早いのであろう。

 また、レーザーレベラーは、我が国でも圃場整備などに使う「土木用機械」として使われているが、カリフォルニアでは「営農用作業機」として当たり前に使われている。というより、畑にするにも稲を作るにも、精密な作物の管理をするためにそれが必須の機械なのだ。

 レーザーレベラーは、単に均平が作れるだけではない。要求する勾配に合わせて遥か彼方まで広がる大きな畑であっても正確な傾斜を作ることが可能である。傾斜に沿って畦を立て、畑の高い位置から畦間に給水すれば畦間を水路にした畦間漂漑ができる。スプリンクラなどと比べて水量の多い畦間漂漑は、畑でも水田が水の力で地力を維持し、水が土壌消毒になっているのと同様に、畑の健康さを維持しているのではないか。

 畦立て、ほとんどの作物が直播である播種作業の正確さにも目を見はらされた。

 見渡す限りの野菜の畦や播種の状態ばかりでなく、果樹などにしてもまさに定規で引いたような正確さで栽植されている。それが、機械であっても正確な管理を可能にしているのだと思われた。

 水田でも数百エーカーという大規模水田で、稲がそれこそ真っ平らにできている。これが、飛行機で種を播き、施肥し、防除したものなのだとは、にわかには信じられないほどきれいな作柄の水田が車窓に見えた。

 我々が訪ねた中・北部の内陸平野では、地域毎の強弱はあっても、ほとんどは複合経営であり、畑では牧草やテントコーンなどの販売用や輸出用の飼料作物を含め、加工トマト、野菜類、米、綿花、等々、多様な作物が輪作されていた。北部海岸地域のサリナスの様な野菜地帯でも、病害虫予防のために地域全体で一斉に野菜の栽培を止め、牧草の様な緑肥作物を植え付ける時期があるという。

 日本の多くの農業関係者は、アメリカの農業を、規模が大きく、気象の条件がよいからコストの安い農業経営が可能であり、そうした条件のない日本農業はそれに太刀打ちできないなどと、よく語る。

 確かに、条件に恵まれているというのは事実である。しかし、その恵まれた自然環境の中でも、彼らはあくまで土や畑に無理をさせず、土から得る以上のものを土仁戻している。また与えられた条件を最大限に引き出すために最新の技術を活かしながらも収奪型農法に陥ることが戒められているように見えた。

 そうした姿を見るにつけ、小規模に集約的に行われていると思われてきた我が国の農業が、何と粗放で雑な農業になっているのか、そしてアメリカ農業と比べて何と危うい農業であるのかと感じた。

 仮に、我が国の農業が面積当りにどれだけの手間をかけ、資材や薬剤、肥料を使おうと、それが進んだ集約的な農法と言えようか。日本の多くの農業がアメリカの農業が気遣っているレベルで技術の選択がなされ、農業の土台としての土や畑そのものの維持管理にどれだけの配慮がされているのだろうか。野菜地帯などでの無理な連作による生産の不安定化とそれに対する対症療法的対策。さらにその結果生じている新たな障害と対策の悪循環。それは生産の不安定化とコストの増大を招いているだけではないのか。

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