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カリフォルニア農業から日本を見つめる

アメリカの真面目さに学ぶ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第1回 1995年10月01日

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 ワトソンビルの農地価格は、エーカー当り2万ドル(200万円)、10aにして50万円もする。借地でも1エーカー1600ドル(16万円、10a4万円)もするのだという。サクラメント周辺の米を作っているような場所の農地価格は10a 5万円程度だが、アメリカといえども、野菜やイチゴのような収益性の高い作物を作れるよい場所では、決して農地は安くないのである。

 我々が訪ねたワトソンビルーペリー・コープは、日系人が中心の出荷組合であり、現在組合員数は22戸。22人の生産者が合計で約600エーカー(約240ha)、1戸平均にして30エーカー(120ha)位の面積でイチゴを生産している。大きい人でも75エーカー(300ha)位だそうで、カリフォルニア全体からすれば面積は小さい。組合員のほとんどは日系人の2世、3世であるが、白人、メキシコ人も4人参加している。

 日本では信じられないが、ここでは、その気候のために3月から11月まで同じ産地でイチゴの収穫ができる。

 国内出荷向けは、11月下旬から12月始めに定植し、4月には出荷が始まる。11 月には雨が降りだすのでスプリンクラーの設備もいらず、人件費もかからない。しかし、約20年前からある日本向けのイチゴは、8月に植えて3、4月から収穫を始める。乾燥期に植えるため、スプリンクラーが必要になり、栽培期間が長いから草も出るし、ランナーの処理も必要である。さらに日本向けの加工用パックは、まだ色の薄い小さなイチゴで1パック当り27~30粒という粒数の多いパックを作らねばならず、収穫にも人件費がかかる。そのために、赤く実った大きなイチゴをあえて捨てて、小さな色の薄いイチゴだけを収穫する。そのことをメキシコ人労働者は不思議がり、また嫌がる。仕事の効率が悪いからだ。すべからく日本向けはコストがかかるのだ。収穫の多い時期であれば最初に日本行きを収穫し、後から国内出荷用を2工程で収穫する。しかし、そうした工程をふんで収穫するのは人件費の面から時期が限られる。

 1エーカーで約5千ケース(25t、1ケース約5kg)を収穫できる。国内出荷用に出荷組合が生産者に払う平均単価は 1ケース5~6ドル。5・5ドルだとすると1エーカー当り売上げは2万750 0ドル(275万円)。1箱当りの生産費はおおよそ3・5ドルというからまケース当り収益は約2ドル。1エーカー5千ケースで約1万ドル(100万円)。 10aにして25万円だ。一戸平均30エー力ーだから、約3000万円の所得だ。

 ワトソンビルに限らずカリフォルニアの農業は、技術力だけではなく経営管理能力、特にメキシコ人を中心とした農業労働者の労務管理の善し悪しが経営を左右する。圃場で選択収穫しながら直接箱詰めをするイチゴは、特に労働者の習熟度や作業能率が経営の収益性を決める。単に拘束時間の単価が高ければよく働いてくれるわけではない。しかし、働くほど労賃が高いとなれば、メキシコ人たちは必死になって働く。築地氏の場合、春先の最盛期で1時間に4ドルの時給と、さらに出塞局払いで1箱毎に75セントを払うことで労働者のモラルを上げているという。それで早い人は1時間に10ケース位収穫するので11・5ドル(1150 円)にはなるそうだ。

 ワトソンビルから日本向けに輸出しているのは同社を含めて約20社。同社からの日本への出荷は総売上の4%位である。価格は高いが、やる人は必ずしも多くはない。「儲かるけど日本へ出荷すると1年に2つずつ年を取る位」大変だからだという。

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