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【海外レポート】
オランダを合わせ鏡として日本の農業を見る 中編
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第2回 2012年01月27日
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~商人の国だから農業は発展する~
下の図を見ていただきたい。国際連合食料農業機関(FAO)による2009年の農産物輸出額の世界ランキングである。オランダの農産物輸出は約743億ドル。世界2位である。それに対して我が国は47位。その輸出額はオランダの約25分の1の30億ドルだ。
世界1位は米国の1010億ドル。5位のブラジルと10位の中国が新興国としてベストテン入りしている以外、上位を占めているのはドイツ、フランス、ベルギー、イタリアなどヨーロッパの先進諸国だ。農業は先進国産業なのである。
九州とほぼ同じ面積のオランダが世界第2位の農産物輸出額を誇っているのに日本が先進国の仲間入りができない理由とは何なのか。
輸出産業としてのオランダ農業
オランダの主要輸出先は食やビジネスで同じ文化圏にあるEU諸国である。中でも英国とドイツが中心だ。マーケットはEU27カ国で数えれば約5億人規模に及ぶ。カリフォルニア州が米国内の約3億人にメキシコとカナダを加えた約4億人のマーケットの中にあるのと同じである。
日本の場合はどうか。我が国も約1億人という均質で大きく豊かなマーケットを抱えている。しかし、その中で我が国の農業は厳しい競争にさらされることもなく安住してきた。経済成長のおかげで厚い保護政策が先行し、日本農業界は声高に危機を叫ぶばかりで、政治的保護を得て海外へ市場を求める努力をしないできてしまったのだ。
サービス産業界も、小売業や外食業が中国などへの進出を始めたのはまだ10年くらいのものである。豊かなマーケットの中にいて、リスクを背負っても海外へ出ていくことの必要性を感じてこなかったためだ。しかし、国内的には生産者過剰、過剰出店ゆえのデフレ競争の中にいるのである。人口減少によるマーケットの縮小がこれだけ明瞭になっても、まだ外圧に怯えるだけで新市場開拓への取り組みは限定的だ。ヨーロッパの先進国とは裏腹に、我が国では相も変わらず“食料自給率向上”が第一の政策テーマとなっている。
輸出拡大への意欲の高い国々に囲まれながら、なぜオランダは突出して輸出額が大きいのだろうか。ハウス園芸分野においてもスペインやアフリカ諸国などとEUマーケットでのシェア争いをしているが、オランダは自己改革を続けることによってその地位を守り続けている。
前号でも紹介したとおりオランダの平均的ハウスのサイズは1980年には0.6haだったものが、2006年には倍の1.2haに拡大し、農場の数も1万5700社から8300社に淘汰されている。国内の競争があることで、オランダ農業が世界のマーケットから必要とされ続ける地位を勝ち得ているのである。
農水省と経済産業省が合併し、普及員制度も廃止して農場の生産技術レベルも向上させた。日本であればこうした農業改革は既得権益を持つ人々の政治的反対で潰されてしまう。でも、マーケットの支持を得られない農業はどのような政治力をもっても守れないのである。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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