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【土門「辛」聞】
現物市場が加われば、コメ先物市場は鬼に金棒だ
- 土門剛
- 第89回 2012年01月27日
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「人の行く裏に道あり花の山」、筆者の大好きな相場格言だ。市場で利益を得るためには、他人とは逆の行動をとらなくてはならないという教え。これをもじって、「人の行く裏に道あり花の山」講座@新潟・南魚沼と名付けた研修会を1月19日、南魚沼市の高級旅館「龍言」で開いた。
ここは魚沼地区だけでなく新潟県屈指の高級旅館の一つだ。この地の豪農の館を移築した建物は、極太の欅の一枚板を使うなど圧倒的な質実感がある。
この龍言には特別の想い出があって、研修会後の宴席の冒頭、こんな思い出話を披瀝した。
「ここ(龍言)へ来て、思い出すのは、町職員から集荷業に転じたAさんという方です。今から20数年前のこと。旧食管法の時代でした。そのAさんが、講演に呼んでくれて、この旅館に泊めてくれたのです。その講演会は、100人ぐらい入るという立派な町の施設でしたが、講演は、広い会場に20人ほどがいたでしょうか。何となく、町の中でのAさんのポジションが理解できるような情景でした。つまり彼は、『ヤミ米業者』に職を変えて、集落から『変わり者』の烙印を押されていたのでしょう。集落の人の冷たい眼を跳ね返すべく、努力に努力を重ね、ついにAさんは転職に成功したのです。天性の相場観があったのか、相場で当てて羽振りが良くなったのでした。講演会をセットしたのも、それを町の人に示すためという事情があったのでしょう。
ところが好事魔多し。大きな取引で代金を回収できなかったようです。人のよい彼のことですから、取り込み詐欺のようなものに引っかかってしまったのでしょう。億を超える金額だったということは噂で知りました。すぐに逃げたそうです。逃亡先からも、たまに電話をかけてきて、『今年の作況は悪いぞ。絶対に値上がりだ』と情報を送ってきてくれたこともありました。新聞社などにも電話をしていたそうです。東京で姿を見たという目撃談を耳にしたことがありましたが、連絡がなくなってからもう20年になるでしょうか。今、ここ(龍言)にいて、思わずAさんの顔を思い出したという次第です。もし彼が、そんなトラブルに見舞われずに順調に商売を続けていたら、おそらくこの場にも参加していたでしょう。相場には、魔物が住むと言いますが、Aさんはそんな教訓を残して故郷を捨てたのかもしれません」
筆者の挨拶が終わり、宴もたけなわになりかけた頃、出席者のある方(女性)が小生の席にやってこられて、涙を流しながら「Aさんとは○○さんのことではないでしょうか。実は、Aさんの奥さんと私はお友達です。奥さんは、子供さんを女手一つで育て上げられ、ようやくその子供さんも独り立ちをされました。ご主人が姿を消してから、奥さんは大変な苦労をされました。今日のお話、そのAさんの奥さんに必ずお伝えしておきます」と話をされたのです。Aさんの顔を思い浮かべつつ、相場には、悲喜劇が交錯するものだなと改めて思い知った次第である。
差金決済と拮抗する現物の受け渡し
今回の研修会は、先物会社からコメのイロハを勉強してみたい、逆に生産者・流通業者からは先物市場のことについて知ってみたいというリクエストのようなものがあり、開催した。人数を30名に絞ったところ、10名が東京穀物取引所と取引業者(受託取引参加者)8社8名。同取引所の取引業者は19社なので、実に約半数の取引業者が参加してくれたのは、正直驚きだった。それだけコメ先物市場への期待がある証でもあると思った。
それはさておき、東京穀物取引所がコメ先物商品を上場して約半年が経過したが、興味深い傾向が出てきている。コメ先物市場そのものは、まだ若葉マーク(試験上場)がついている段階だが、取引所の説明によると、当初の予想以上に「現物の受け渡し」が多かったという。ご存知かと思うが、取引には「現物の受け渡し」か「差金決済」の2つのパターンがある。戦前の先物市場では、後者が圧倒的に多かった。これでピーンときたのは、現物市場が整備されていないので、先物市場を現物市場のような感覚で使っているのではないかということだった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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