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そもそも先物市場を72年ぶりに復活させた農水省の意図があまり理解されていない。先物市場復活コールは、今から10年前に起きた。同年6月28日の「生産調整に関する研究会」第7回会合で、「先物取引については、生産調整や国境措置を行なっている現状では導入すべきではないが、将来において、関係業者の価格変動リスクを軽減させる手段として、その導入の可能性を排除すべきではない」と方向付けられた。
その同じ年に同省は、「コメ政策改革大綱」をまとめた。これは「消費者重視・市場重視の考え方に立って、需要に即応したコメづくりの推進を通じて水田農業経営の安定と発展を図ること」を目的にしている。これに沿って「生産調整に関する研究会」が設置され、先物市場復活の方向性を示そうとしたのである。
この方向付けで注目すべきは、「生産調整や国境措置を行なっている現状では」という記述部分である。前者は説明の必要もあるまい。後者は、輸入米から国産米を守るために課せられる関税のこと。生産調整や国境措置がなくなれば、先物市場を導入するという意味に理解できる。
ただ「生産調整」という部分については、国などが生産調整を割り当てるような方式が改められ、市場のシグナルに沿って生産者や生産者団体が主体的に生産調整に取り組むような事態になれば、と解釈すべきである。ただ残念ながら、「生産調整」は、行政が生産調整面積を割り当てるという点において、コメ政策改革大綱がまとめられた当時とさほど変わらない状態が続いている。
さらに「国境措置」についての部分は、TPP(環太平洋パートナーシップ)、FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)などの場で農産物の関税が撤廃されるような事態になった場合、先物市場を復活させるという意味も含むであろう。
先物市場の成否は農協組織の動向次第
それらを勘案すれば、先物市場はその時に示した前提条件をクリアせずに踏み切ったことになる。なぜ同省が復活を急いだのか。そのあたりの事情説明はあまり聞かれない。筆者が思うには、10年から試験的に導入した戸別所得補償との関係ではないかとの見方をしている。なお、戸別所得補償の本格導入は、その翌年度のことであった。
戸別所得補償について、改めて説明すると、コメの「生産数量目標」に即した生産を行なう販売農家を対象とする「米戸別所得補償モデル事業」と、水田での麦・大豆・米粉用米・飼料用米などを生産する販売農家を対象に主食用米並みの所得を確保する水準の金額を交付する「水田利活用自給力向上事業」の2つの事業から成る。「米戸別所得補償モデル事業」は、定額部分(10a1万5000円)と、変動部分から成り、後者については当年産の販売価格が標準的な販売価格を下回った場合、その差額を交付される仕組みである。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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