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そこで試験導入された10年産米に対して全農が農協に提示した概算金の金額を思い起こしていただきたい。東北6県は、福島県を除いて10a当たり9000円以下だった。前年産との差額は2900円から3600円で、異常に安く設定された。
概算金を下げて米価を低めに誘導して、現実に米価が下がったら、政府に変動部分を発動させて農家の所得を穴埋めさせるという目論見を農協組織が持っていたとしか思えない価格操作だった。その背景に民主党政権が、農協組織が抱えた在庫の処理、つまり緊急買い上げを実施しないと宣言したことも大きく影響した。在庫を抱えないように集荷するのに、あのような概算金を設定したということになる。
欧米では戸別所得補償のような支援策は直接支払いと呼ばれる。その支払い基準は、先物市場で示される価格などと連動する場合が一般的である。公明正大な市場で形成された価格なら、それを負担する納税者が納得する基準に落ち着くと考えられたのだ。ところが、わが国には、そのような市場が不在だった。農水省の肝煎りで02年に発足した米穀価格形成センターは、その役割を期待されたが、農協組織による集団ボイコットで市場機能を果たせず、11年3月末に解散してしまった。
そのバトンを受け継ぐような形で復活したのが先物市場で、11年8月8日に初取引が始まったのである。先物市場の成否は、農協組織の動向にかかっている。今は市場参加ボイコットの方針を決めているが、そんなものはいずれ崩れてしまう。販売力のある農協から、一抜けた二抜けたという脱落状況が思い浮かぶからだ。
農協の全農離れは、極めて深刻な状況に陥っている。それを裏付けるのが、全農がホームページで公開している米穀事業取扱高の数字である。06年度に1兆円だった取扱高が、10年度には7400億円に急減した。わずか5年間で25%も取扱高を減らしたのである。マーケット全般の冷え込みもあるが、それ以上に農協のコメ販売で「脱全農」路線が急激に進行していると見るべきだ。
農協による脱全農路線の原因を筆者なりに分析してみたい。いくつか理由はあるようだが、一つは、全農の価格支配力に陰りが出てきたということが考えられる。もう一つは、全農にコメの販売を委託した場合のコストの問題である。
前者は、何といっても10年産の低概算金が全農への失望感を醸成したことであろう。農家が、農協に反発を示し、翌11年産で脱農協へ踏み出す農家が増えたという事実がある。その結果、農協が組織防衛的に脱全農への動きを示したのだろう。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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