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新・農業経営者ルポ

すべてを受け入れて、前に進む 東北の農業経営者魂ここにあり



新食糧法の施行をきっかけに農協と決別する

 そんな伊藤の経営が大きく変わるきっかけは95年に施行された新食糧法だった。「この先も、このまま農協とつきあっていていいのだろうか」と考えるようになったのだった。

 「農協の場合、全農を頂点としてそこに行くまでに、いろんな手数料を取られる。当時1俵につき3000円くらいだったから、ある程度面積があれば業者に出したほうがずっといい。新食糧法が施行されたのは11月だったはずけど、お盆前から業者がどんどん入ってきたよ。その中から優良業者を選別したら、農協に出す分が結果的にゼロ(笑)」

 農協から何か言われませんでしたか、と聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「ものすごい軋轢だったね。それまで出荷量が一番だったのに、いきなり1俵も出さなくなったんだから。まして親父が元組合長という立場もあった。けれども、これを乗り越えなければ続かないとも思ってたけどね。農協は5月の田植えが終わった後、仮払金を払ってもらうでしょ。それを返金したし、違約金も払うことになったしね。でも、新規業者の買い入れ価格からすれば、たいしたことではなかったよ。それで農協と縁が切れるのだったら……と喜んで払ったもの」

 伊藤にとって、業者との取引の魅力は先払い方式だったという。

 「農協の場合は1度に口座にふりこまれるので、それを1年の間、切り崩し続けていくことになる。しかし、業者との契約では、信用取引の一端として、出荷前に代金を払ってもらう契約にしてもらった。売上と入金が明確になるので事業計画が立てやすい。切り崩すやり方だと、どうしても貯金を減らしたくないという思いからつい借金をする。その借り入れ先が農協だったりすると、ますます農協に依存するようになるもんですよ」


交渉力、メンテ力などを活かしたコスト削減策

 農協を離れて、民間業者とつきあっていくうえで不可欠なのは売り先の確保である。伊藤は営業のために大阪や名古屋など各地へ出かけた。一方で、品質を上げるために、様々な微量要素資材を投入して、食味の向上の努力にも余念がなかった。品質がよければ、業者同士の口コミで仕事も舞い込んでくるとふんでいた。

 取引業者の仕入担当者が生産地を見たいといってくると、伊藤は「日帰りしてはダメ」といって、ホテルを準備して、夜担当者といっしょに飲んで話をしながら交流を深めていった。様々な業者とのつきあいの中で交渉術も学んだ。

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