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【土門「辛」聞】
ホビー農業の集落営農組織に「人・農地プラン」は必要ない
- 土門剛
- 第90回 2012年03月06日
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新年度事業で農水省が打ち出してきた「人・農地プラン」――。目玉は、「青年就農給付金」、「農地集積協力金」、「スーパーL資金の金利負担軽減措置」の補助金だが、集落の同意を条件とした地域農業マスタープランの作成を義務づけるなどの旧来手法は相変わらずである。
制度の是非を論じることはいつかの機会に譲るとして、岩手県が経営難にある集落営農組織を延命させるため、この補助金を悪用しようとしていることについて告発してみたい。その集落営農組織について達増拓也岩手県知事は、この2月16日の定例県議会でこう演説している。
「認定農業者や集落営農組織の経営規模の拡大、経営の多角化、新規就農者の確保を進め、新たに年間3000万円以上の販売額の実現を目指す先導的な経営体の育成に取り組みます」
達増知事の認識は甘すぎる。集落営農組織の多くは、先導的な経営体を育てることには何も役立っていないどころか、老人層のホビー農業を補助金で守っているだけの状態である。しかも、経営実態は、その多くが破綻状況にあり、それを取り繕うために貧しい農家までが苦しい家計の中から理不尽な支出を強いられている。背後には農協がいて、農家は彼らの「農奴」と化せられているというのが、筆者の受け止め方。
やぶ蛇となったアンケート
まずはこの県における集落営農の実態から紹介してみたい。農林水産部担い手担当課の千田牧夫課長に取材の相手をしてもらった。冒頭、岩手県内農家の声なき声のような切実な意見を紹介しておいた。
「農家は、県の指導に沿って集落営農組織に参加したが、メリットは何もなかった。これ以上いても、損するだけなので、組織から抜け出たいと思っているが、農協や集落に遠慮して誰も抗えない状態だ。農家をこの隷従状態から解放してもらいたいと思っている」
県の公式文書で集落営農組織の経営実態を確認してみようと思い、千田課長に資料の提出を求めたが、「そんなものはありません」と素っ気ない返事が戻ってきた。なお執拗に質問を重ねると、機嫌を損ねられたのか、「そんなに話が聞きたいのなら、岩手へやって来たらどうか」という取材の誘いまで受けてしまった。
県庁担い手対策課を訪問すると、千田課長が4点の資料を目の前に並べられた。東北農政局作成の「集落営農実態調査結果の概要」(2011年4月)、岩手県農業会議の「集落営農組織の運営等に関するアンケート調査結果概要報告書」、岩手県農業研究センターの「集落営農組織の現状と展開方向」、岩手県農林水産部の「本県農業・農村の動向」(12年2月)。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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