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集落営農組織を前提とした岩手県農業はすでに破綻している。県は、それを包み隠すため、新たな補助金に目を付けてきたのだ。農水省が新年度に打ち出す「青年就農給付金」や「農地集積協力金」のことである。事前の電話取材でも千田課長はこう言っていた。
「実は国の地域農業のマスタープラン、1年早く始めようとしていました。それが、震災の影響でストップになっていました。今回、国が人・農地プランを出してきたので、もう少し工夫して、集落営農の新しいビジョン作りに加工しようという議論が始まった段階です。せっかくいいチャンスを国がくれたので……」
このコメントを筆者流に解説してみよう。千田課長がと言うよりは、農業を破綻させた岩手県が、破綻に瀕した集落営農組織に、「青年就農給付金」を使って、タダ同然の労働力を受け入れ、組織をゾンビのように生きながらえさせることを虎視眈々と狙っているということだ。
さらに心配されるのは、農地集積協力金だ。過去の経緯から、集落営農組織に、この補助金を与えれば、農地貸し剥がしの種にもなりうる。達増知事は、先の演説でも集落営農組織の経営規模の拡大をうたっていた。この県の役人の質をみれば、それは真面目に取り組む生産者の農地を貸し剥がせと部下に指示を与えているようなものと思った。
最後に達増知事には、お隣の青森県八戸や三沢近辺の農家が見た岩手県農業の感想を紹介しておこう。
「いい政治家がいなかった青森には、岩手ほど補助金は来なかった。そこで考えたのは、何をしたら儲かるか。商人系を中心にそのことばかり考えてきた。それが長芋やニンニクという特産品を商人が農家と一緒に育てることができたのだ。最近は、その商人が農家に負けじとばかりに農地を集め、生産現場にも入ってきた。岩手は補助金に頼り切ってきた結果、農家も農協も力を弱め、商人も育たなかった。農家や農協は、『米粉、米粉』と叫んで、補助金で食いつないでいる。そのうち補助金もなくなれば、岩手の農業は名実ともに破綻するに違いない。ここと違って若い人は入ってこないし。その時は、われわれに岩手の農地を任せて欲しいね」
集落営農組織と心中した岩手県農業に、これ以上補助金投入の効果はあるだろうか。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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