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【江刺の稲】
頼もしき農業高校生に農業の未来を見た
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第190回 2012年03月06日
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2月1日に第63回定例セミナーを開催した。講師は在京オランダ王国大使館農業・自然・食品安全担当参事官、カーラ・ボーンストラさん。セミナーのタイトルは「日本農業はオランダから何を学ぶか?」だった。施設園芸を中心にオランダ農業についての解説をいただいた。皆様の関心も高いにもかかわらず、弊社内での開催としたため、満員で参加をお断りせねばならない読者もおられたことをお詫びしたい。セミナーの模様は後日、ネット上でも公開するしDVDも作る予定である。
オランダでは2010年に農林水産省と経済産業省とを再編し、経済・農業・イノベーション省として農業のさらなる産業的発展を目指している。別稿の筆者の連載にあるとおり、九州とほぼ同じ面積で国土の4分の1が水面下にある国土条件でありながら、麦の10a当たり平均収量が1t前後、その他ジャガイモやトマトなども世界で一、二を争う収量水準を誇る。麦やジャガイモのように気候条件や土質の違いのある作物ではない(温室)トマトで、オランダの平均収量が10a当たり50t程度であるのに比べて日本の平均は5t台に過ぎない。オランダ現地で聞いたところでは70tを超す農場もあるそうだ。しかも農産物の輸出額は米国に次いで世界2位(2009年のFAOデータでは日本は47位)。この日蘭の違いの理由を筆者は、先進国でありながら我が国が途上国型の農業政策をとっていることだと思う。詳しくは連載記事をご覧いただきたい。
こうしたオランダと比べると日本農業の情けない姿を感じてしまうのも事実であるが、今回のセミナーで日本農業の未来を感じさせてくれる参加者がいた。
愛知県立渥美農業高等学校の西山忠尭君(1年生)と岡本宗之君(2年生)のことだ。
同校はオランダ・ウェラントカレッジと姉妹校関係にあり、毎年、両校の生徒と教師が交換でホームステイをして体験交流するというプログラムを行なっている。これは、同校の取り組みに同窓会と が協力する形で行なわれているもので、インフルエンザが世界的に流行した年を除きこれまで12回にわたり姉妹校派遣研修を行なっている。彼らはその14回目の研修生に選ばれ今年オランダを訪ねることになっているのだ。それに先立つ事前の勉強として弊社のセミナーに参加したのだという。しかも、僕が嬉しくなったのは、ふたりが同校農業クラブの会計係にして14回目の派遣団員であることを示す名刺を自分で作り、それをカーラさんに差し出して挨拶をしたことだ。当然といえば当然かもしれないが、その振る舞いが高校生にしてはまことに堂々と礼儀にかなった挨拶をしていたことだ。カーラさんも彼らの話を聞いて大変感激していた。
父親である西山直司さん(愛知県田原市)が本誌読者である縁で、忠尭君は中学の修学旅行の折に、友人数名とともに課外研修として我が社を訪ねてくれたことがある。それから1年余たっての忠尭君の成長ぶりは見違えるほどだった。
これまでたくさんの農家に会ってきた。でも、20年前であれば名刺はおろか他人との挨拶もまともにできない農家も少なくなかった。どんなに愚民政策としての農政が続いても、確実に若者は育っている。
忠尭君、宗之君。君たちのオランダ研修は農業経営者としての成長にとって大きな財産となるはずだ。しっかり楽しんで勉強してきてください。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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