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中間報告では、「暫定規制値を超過した放射性セシウムを含む玄米が生産された水田(16地点)の土壌について粒径組成を分析したところ、14地点は粘土分が25%以上存在する土壌であり、砂の多い土壌は一部地区(伊達市旧月舘町)のサンプルに限られた。 一方、粘土鉱物の組成は、地域によって異なるが、福島市旧小国村、旧福島市、伊達市のサンプルでは、セシウムの固定力の強いイライトやバーミキュライト類は少なく、粘土含量は一定程度あっても、固定力や吸着力は低い可能性が考えられる」と報告された。いずれの場所も土壌中の放射性セシウムは吸収されやすい形だった可能性がある。
福島県の土壌は、灰色低地土と褐色森林土が多く、平地部に灰色低地土が、山間部には褐色森林土が広がる。灰色低地土は粘土分が多く、褐色森林土は粘土分が少ない。東京大学の根本圭介教授らの報告によれば、イネへの放射性セシウムの吸収を比べると褐色森林土が灰色低地土より8~10倍多かったという。また、学習院大学村松康之教授らが、灰色低地土と黒ボク土で放射性セシウムのイネへの移行を調べたところ黒ボク土のほうが灰色低地土より移行しやすいことがわかった。黒ボク土は、有機物(腐植質)が多く、セシウムをそれほど強く吸着していないため、根を通じて放射性セシウムを取り込みやすい傾向がある。
カリウム濃度が不足
これも前号でも述べたが、カリウムとセシウムは化学的な性質が似ている。土壌中にカリウムが少なければ、植物は栄養分としてカリウムの代わりにセシウムを吸収する。また、カリウムが多ければ多いほどセシウムと競合するため、セシウムの吸収を抑えることができる。中間報告では、「暫定規制値を超過した水田土壌の置換性カリウム濃度は100g当たり平均6.7 mgで、福島市の土壌の平均15.9mgの3分の1程度と低い水準であった」という。コメの放射性セシウム濃度と土壌のカリウム濃度の間には一定の相関が見られ(図2)、土壌のカリウムの量が少ないほど玄米中の放射性セシウムの量が多く検出される傾向があることがわかった。また、「農家の中にはカリ肥料が無施用の場合もあり、土壌中のカリウム濃度が低いため、放射性セシウムの吸収が増加した可能性が考えられた」と考察する。
根の張り方が浅かった
中間報告では、「玄米の規制値超えが多かった山間部の狭い水田は十分に耕されておらず、表土に近いほど土壌のセシウム濃度が高かった。十分に耕さず、固まった表土近くにセシウムがたまり、イネは高濃度の表土層に根を張る状態になっていた」という。「浅い耕うんと常時湛水のため、根張りが浅いことに加え、根が主に分布している土壌表層に高濃度の放射性セシウムが残り、放射性セシウムを吸収しやすい状況にあった」と推測している。十分に耕されていない水田では、根の張り方が浅いため表層にある放射性セシウムに接しやすかったということだ。原発から放出された放射性セシウムは表層近くにとどまっていて、東京大学の塩沢昌教授らも、耕していない土地の表面から5cmのところに全体の90%以上もの放射性セシウムが集まっていたと報告している。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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