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「実は私自身勉強になるんですよ。企業で長年管理職をされていたビジネスマンの感覚はさすがです。みな責任感が強くて紳士なんですね」
現在30名在籍している従業員のうち、65歳以上の高齢者が3分の1を占めている。収穫作業を黙々とこなしている方に話を聞いてみた。
自動車メーカーに勤務していた藤崎(73歳)は、ウォーキング、農作業、ゴルフの3つを生活の柱にしている。農作業は健康の維持・増進対策というより、仕事として捉えている面が大きいという。当初、1日おきの出勤で数時間働いて少しずつ身体を慣らしていくことを薦められたが、休みの日に小松菜の生育具合と出荷状況をみて間に合わないと判断すると、自主的に出勤して仕事に取り組むようになった。
「会社員時代のようなストレスもなく、収穫の喜びを味わえるのは最高です。でも、常に移動距離の短縮や歩留まり率を高めることを心掛けながら“ジャストインタイム”を意識しています。」
こうした問題意識を周りの仲間に押し付けるのではなく、自ら黙々と実践して和やかに範を示している様子が伺える。
若谷と相談しながら現場の段取りを任されている猪股(70歳)もまた、藤崎と同様にメーカーに勤務していた。今年で6年目になるというが、体力的に大丈夫なのだろうか。
「まだまだ全然大丈夫ですよ(笑)。無理せず、仲間と和やかにやってほしいと言われました。そんな社長の人柄に惹かれたからこそ、ここまで続けてこれたというのが正直なところです」
人生経験豊かな頼り甲斐のある従業員たちに助けられる一方で、若谷は社長としてのきめ細かい配慮を怠らない。葉物野菜の収穫作業は、場所によって生育状態がそれぞれに異なるため、楽に収穫できるところとそうでないところがある。そこで、どの人がどの畝に入るか、また、どんなフォローをしているかなど、公平に現場を観察している。さらに、同じ条件の畑で同時に作業に入れる機会があると、各自の作業結果をグラフにして公表することもある。これはノルマを設定したり管理を厳しくすることが狙いではなく、各自が自分の作業ペースを客観的に把握することでモチベーションを維持して仕事を続けやすくするための配慮だという。
「現状では収穫作業としてはやや丁寧過ぎるくらいですが、その丁寧さ、消費者の立場に立った商品づくりが、高級料亭が直接買い付けにきてくれたり、百貨店などでこだわり野菜として評価していただけるんです」
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若谷茂夫 ワカヤシゲオ
有限会社若谷農園
代表取締役
1951年埼玉県浦和市(現・緑区)生まれ。69年埼玉県立杉戸農業高等学校卒業後、就農。稲作1.8ha、くわい田60aを親から引き継ぐ。85年頃より近郊農業での葉物野菜の可能性に注目し、93年頃には小松菜の周年栽培を確立。02年農場を法人化。現在の経営規模は、小松菜(露地)4ha、小松菜(ハウス)80a、くわい田60a。出荷先はJA全農さいたま、浦和中央青果市場、百貨店、割烹料亭、地元小・中学校給食向けなど。正社員4名、パートタイム従業員25名。06年埼玉県知事より埼玉県農林業賞受賞、大日本農会総裁、桂宮宣仁殿下より緑白綬有功賞受賞。
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