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大泉 どこで付加価値をつけるかといったら、「他産業のノウハウをどう取り入れるか」という問題にたどりつくと思います。他産業のノウハウと農業のノウハウを融合するので、私は「融合産業化(インテグレーテッド・アグリカルチャー)」と言っているのですが。実際に農業で発展してきたヨーロッパの小国は、他の産業と手を結んで成功してきました。
昆 オランダの農産物輸出額が多いのは、加工貿易によるところが大きいですよね。ジャガイモや麦を輸入して、その加工品もたくさん輸出している。たとえばロシアは種イモがなくて品質が揃わないため、ジャガイモの加工業ができません。そこでオランダが種イモの供給や栽培品質から、加工業の技術まで含めてロシアに売り込んでいる。農業が食産業とセットになっているのは、まさにインテグレーテッドと言っていいでしょう。
大泉 そこで重要になってくるのは、どのように農業以外の産業と融合するかなんです。本当に農業の中にいる人がやろうとするなら、他業界の人達と幅広いコネクションを築いていかないといけません。ただ今の農業の世界しか知らない人達にそれができるかと言ったら、おそらくできないでしょうね。だからいろいろなノウハウをつぎ込めるようなプラットホーム作りが必要になるわけで、それは農地をひとつのところに集めて複数の企業が関わるやり方でも、資本を出しあったひとつの経営でもいい。要は経営者連合の存在が必須要件で、それをどうやって作っていくかが日本の農業の次の課題なんです。ただ現時点ではそこまでまだ意識がいってないと思いますね。
震災後の農業復興にブレークがかかった理由
昆 宮城大学教授を務める大泉さんにとって、東日本大震災はことさら大きな事件だったかと思います。現在の復興状況を目の当たりにして、どのようなことをお考えになっていますか。
大泉 この一年で何が起きたか順を追って振り返ると、最初は瓦礫に埋もれた田んぼを見て、「売りたい」「国が長期で借りてくれ」という農家がいっぱいいたわけです。農協も「支援をしなければいけないし、買ってあげければいけない」と声を上げていました。そして8月頃には、「みんなでまとめて大きい農業をやりましょう」という機運も高まった。大規模にして、いろんな企業を入れて、効率いい農業をすることが一番いいことは、はっきりしてるわけです。
ところが現在、このプラットホームを作れないでいます。それはだんだん瓦礫がなくなってきれいになるに従って、「売りたくないし、貸したくもない」と言い出し始めたこともあるし、何より農協が同意しないことが大きい。分散した農家をそのまま温存した方が農協の経営にとってはいいわけで、大規模に新たな農業を作り上げることに対しては、後ろ向きな農協がブレーキをかけている現状がありますね。それと同時に「大規模化して効率のいい農業を作るのは、被災地の人間に対して失礼だ」と言いだす人もいるんですよ。
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大泉一貫 オオイズミカズヌキ
東北大学農学部
助教授
1949年宮城県生まれ、東北大学卒業、東京大学大学院修了。農学博士。現在東北大学農学部助教授。専門は農業経営学、農業経済学。柔軟な発想による農業活性化を提唱。機関車効果や一点突破、客車農家など数々のキーワードで攻めの農業振興のノウハウを普及。著書に「農業経営の組織と管理」、「農業が元気になるための本」いずれも農林統計協会、「一点突破で元気農業」家の光、「いいコメうまいコメ」朝日新聞、「経営成長と農業経営研究」農林統計協会など。
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