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この不自然な受け答えが、筆者の疑念をさらにかき立ててくれた。これだけ決算書のことに触れたがらないのは、絶対に何かあると直感したのだ。多額の補助金を受けていながら、決算書すら作っていない。公金を扱う組織としては落第点で、その分なら納税申告もしていないのではないかと連想したのである。
連想を助けてくれたのは、筆者の耳に届いていた、いくつかの現場情報である。その代表的なものを紹介してみよう。
現場情報1「決算書、そんなの見たこともないよ。60や70の爺さんに、貸借対照表とか損益計算書とかいってもチンプンカンプンだよ。それに儲かってもいない組織で、そもそも決算書なんて作れるのかね」
現場情報2「地域のボスのような者が、勝手に決算書のようなものを作成しているようだが、構成員の農家にはチラッと見せるだけで、農家が持ち帰ったり、コピーしたりするのを厳禁にしている」
現場情報3「集落営農には隠し金があるという噂だよ。農家に配当を払わないで組織が利益の大半を積立金とか繰越金とか勝手な名目を付けて隠しているというのだ。あいつら補助金をもらうだけもらって払うべきものを払っていないぞ」
現場情報4「集落営農組織に参加している農家は、納税申告の際、営農にかかる費用を個人と組織の両方につけて税金の一部を免れている」
現場情報5「農家は裏に回ったら、あんなの入って損させられたって集落営農組織の悪口ばかりだよ。行政と農協がうまいこと仕組んでいるから、組織から抜けようにも抜けられないんだ」
頭隠して尻隠さずの調査
集落営農組織の脱税行為を立証するのは、さほど難しくはない。農水省の公表資料からでも、状況証拠程度のものは簡単に見つけることはできる。筆者が着目したのは、農水省統計部による「集落営農活動実態調査結果の概要」(以下、「調査結果の概要」と略す)という資料である。
そこに「財務諸表の整備状況、納税の申告方法」という項目がある。統計部センサス統計室の矢野哲男室長に統計方法を聞いてみた。岩手県内563組織のうち87組織を統計部が任意に抽出して調査したという説明が戻ってきた。俗にいうサンプル調査である。この程度のサンプル数なら、ある程度の傾向分析には役立つと判断した。
残念なことは、都道府県ごとの数字が公表されず、ブロックごとの数字しかないことだ。その理由について矢野室長は、「集落営農活動実態調査は、すべてを対象にした全数調査ではないので、都道府県ごとの数字は公表しない」と説明していたが、その根拠は示さなかった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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