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高級住宅街のインド人たちの現職といえば、薬剤師、学校経営者、弁護士などの高給取りで、この20~30年間に地元の白人たちに取って替ってしまった職種である。元々頭がいいとかそういうわけではなく、彼らは共通して勤勉である。移民世代は次世代の子供たちのために肉体労働をし、生活費と教育費を稼ぐ。そのうちの成功者たちがこの高級住宅に親を引き連れ、三世代以上の大家族として同居しているのである。
英国人は基本的に核家族であるのに対して、インド人は英国に移民しても大家族を踏襲している。そして、緊密な血縁・姻戚関係で結束するとともに、同国人同士のシンジケートを作り、お互いを励まし合ってきた結果がこうしたニュー・ブリティッシュといわれる彼らなのだ。
この種の例は、何もインド人だけではない。中国からの華僑は然ることながら、アメリカに渡った日本人もリトル・トーキョーという日本人街を作るほど、日本人コミュニティを大切にした。そして、その知性とパワーを見せつけられた異人種が日本人排斥運動などを起こした。
ここで言いたいのは、集まることによって得られる力である。筆者の知る範囲内ではあるが、海外に渡って自国民同士の互助コミュニティを形成した民族は、教育レベルも高く、その子供たちは知的産業や斬新なビジネスに就いている。華僑はその好例だし、農業経営者の例でも、次世代に教育機会を与え、ブラジル発の日系農産企業として躍進しているところもある。
もちろん、移民して地元に同化するという選択もある。その場合は移民の次世代あたりから混血化が進み、故国のコミュニティとの関係がないまま、その関係も失われてしまう傾向にある。これでは本人のアイデンティティーを歴史からたどることさえ困難であろう。やはり、未来を考えると、自分の文化を我が子に背負わせてあげることが親の務めだと思う。おそらく、コミュニティを作り、家族をその中で守っていくとはそういうことなのだろう。だからこそ、どんな仕事でも誇りをもって取り組めるのだなあ、とトピオリを手入れする老夫婦の前で彼らの積んだ歴史を想った次第である。
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マック木下
ゼネコン、商社、航空旅行業、世界的弱電企業などの国際畑で育ち過ぎた50代。1980年代から主に英国に住み、英人が本名をちゃんと発音できなかったので、いつしかマックに。ジャンルには無節操なライターで、執筆歴は10年間ほど。専門は日英関係史とロンドンの歴史散歩。寄稿先は『英国特集』『R.S.V.P.』『Quality Britain』『Taste of Britain』『未来教室』『ぼんじゅーるレマン』のほかミニコミや会員誌など。
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