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新・農業経営者ルポ

男はオランダと出会い農業のあり方を学んだ

富士の裾野にたつ長谷川農産のマッシュルームファーム。オランダの設備と栽培技術を導入し、徹底した衛生管理により無農薬・無漂白の高品質マッシュルームを年間300トン生産する。県内有数のキャベツ農家から7億5000万円の借金を背負って転身した農業経営者の決断と挑戦。その背後には農業先進国オランダを体現する若手コンサルタントとの出会いがあった。取材・文/清水泰 撮影/昆吉則 写真提供/(有)長谷川農産

 春の嵐が吹き荒れる中、厚い扉を開けて栽培室に入ると、耳につく風雨の音がピタリと止んだ。施設の栽培室は6つに分かれ、クリーンルームの室内はコンピュータで各室が最適な温度・湿度に管理されている。

 マッシュルームは90%が水分と言われ、無農薬・無漂白なら手で触れただけで色が変わる。ホワイト種が主流で変色を嫌う国内市場で一般に流通するのは、栽培中に漂白剤を噴霧したり収穫後に漂白作業をしたりするものがほとんどだという。水道水に漂白剤が混じっているため、地下50mから汲み上げた天然水を利用している。この深さなら土壌汚染の影響を受けることもない。

 「どうぞ生で食べてください」と言われた筆者は、まずホワイトマッシュルームを口に入れた。コリコリした歯ごたえの後に旨みが口の中に広がる。ブラウンは香り、コクが深い。

 約25年前、作物の転換を模索していた長谷川はオランダでこの感動を味わっている。本場のマッシュルームづくりを通じた農業先進国オランダとの出会いが、彼を農業経営者へと進化させることになる。


農薬不使用の作物を模索 オランダに行き着く

 長谷川は当時、富士市に2軒しかなかったキャベツ専業農家の長男として生まれた。県立の農業短大卒業後の20歳で就農。祖父の代に始めたキャベツ栽培は、標高差のある4haの農地を利用して8ha分を生産するまでに拡大していた。家族5人で年間3万5000ケース以上を出荷する県内有数のキャベツ農家だった。

 「出荷量が多いため売り方も他とは違っていて、農協や市場の競りには出していませんでした。契約栽培ではなかったのですが、即席めんの食材や整腸剤の原材料としてメーカーに販売したり、スーパーのバイヤーと夜中に会って値段を決めて売ったりしていました」

 だが、父が病に倒れ、家族経営の限界が露呈する。祖母が入院し、母も農薬アレルギーで体調を崩した。長谷川にも農薬アレルギーの症状が出ていた。

 慣行栽培から有機農業への転換を模索し始めたものの、失敗。かといって4haの畑をフル活用できる作物が簡単に見つかるはずもなかった。

 

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